Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【63】
4ページ/4ページ

 それぞれの行き先が決まった
ところで、後藤は車を発進させ
た。

「……かわいいな」

 後部座席の達海はぐっすりで、
後藤はバックミラーに見える達
海のあどけない寝顔を見つめた。
 確かにこの寝顔と一晩一緒に、
何もせずにいろというのは拷問
に近い。
 後藤は村越の選択を賢明だと
感心しながら、達海を背負って
マンションの自分の部屋に運び
込んだ。
 ベッドに横たえ、靴とジャケ
ットを脱がせた。
 そうして自分は風呂に入り、
今日はソファーで眠ろうと思う。
 一緒のベッドで眠っては、到
底触れずに我慢ができない。
 達海がいることを意識しない
ように、テレビを点け、缶ビー
ルを一本開けていつもより音量
を絞って無意味に二時間のサス
ペンスドラマのクライマックス
を眺めた。
 ぼんやりと見ながら、考えな
いようにしているのに達海の事
ばかりを考えてしまう。
 達海がこんな風に酒に呑まれ
ているということは、相当楽し
い呑み会だったに違いない。
 若い頃は無茶な飲み方をして
翌日起きられずに監督やコーチ
に叱られては膨れっ面になって
いた達海だが、今はそんなこと
もなくなった。
 だから眠気に勝てなくなるま
で達海が呑むということは、想
像以上に楽しめたということだ。
 だが、機嫌よくスヤスヤ眠っ
ているので、二日酔いの心配は
なかろう。
 村越はその辺りを知らないの
だと思うと、こっそりと優越感
が口元に浮かんだ。

「……俺、結構性格悪くなって
るかな?」

 ポツリと呟く後藤は、かなり
自嘲気味な声がリビングに溢れ
た。

「なんで……?」

 しかし、そこに聞こえたぼん
やりとした声に飛び上がる。
 きっとソファーから二センチ
程尻が浮いた。

「達海? 起きちゃったのか」
「ん……あれ、村越は……?」
「笠野さんとの約束破りそうだ
って言って帰ったよ」
「んんー……」

 寝室のドアにもたれ掛かって
ムニムニと目元を擦る達海の姿
はとんでもなく可愛い。
 後藤は、手を出したくなるの
を堪えるのに必死だ。

「後藤……」

 トタトタとおぼつかない足取
りでソファーまでやってきた達
海が後藤の隣に腰を下ろして抱
き着いてくる。
 はぁ、と吐息を漏らして後藤
に身を委ねてくる達海の背中を
片手で軽く撫でながら、拷問だ、
と思った。

「……楽しかったか?」
「ん……」

 八割方眠っている達海が頷く。
それがまた、最高に可愛い。

「でも……後藤が……」
「ん? 俺?」
「ん……いなくて……さみしか
った……」
「……、」

 この小悪魔めっ!
 と、心密かに詰ったのは致し
方あるまい。
 手が出せないと分かっている
のにこんなふうに甘えてくるな
んて、絶対に虐めだ。

「もう寝ろ、達海。ほら、ベッ
ド戻って」
「やだぁ……ごとーと一緒にい
る……!」
「こら、達海、頼むから!」

 焦る後藤に、剥がされたくな
いひっつき虫な達海がギュッと
抱き着いてきて、後藤は非常に
忍耐を強いられた。
 後藤は笠野と達海を恨みつつ、
ひとりこの拷問から逃れた村越
をもっと恨みながら、


 泣きたくなるような一夜を過
ごしたのだった。




>> Next……
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ