Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【63】
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 達海を背負ってしゃんと立っ
ているようだが、なんとなく焦
点もぼんやりしているような気
がしなくもない。
 そして、さらにここで後藤は、
村越がどうやら達海とは逆の立
場の四人で呑んでいたのだと知
った。
 そこで初めて、村越たちの会
話の中身が気になってくる。

「だって、全部ひらかなっスよ。
ひらかな。いくら丹さんだって、
ひらかなばっかりのメールとか
よこさないです」

 顔が紅潮して、どうやらこち
らはかなり酔っているらしい赤
崎が平仮名と繰り返す。
 後藤としては、赤崎と丹波と
いう組み合わせは未だにしっく
り来ないのだが、こうして丹波
の名前が出るところを見ると、
本当の話なのだろう。
 どこかソワソワしている赤崎
が面白くて、後藤は思わず尋ね
てみた。

「なんだ、自分にメール来なく
て拗ねてるのか?」
「! な、なに言ってんスか、
後藤さんっ!!」

 噛み付く赤崎に、村越が静か
にしろと目線で制する。
 後部座席に乗せた達海はちょ
っとやそっとでは起きないのだ
が、それでも静かに、と言いた
くなる村越の気持ちはよく理解
できた。
 なにしろ達海は、本当に気持
ち良さそうに眠っているのだ。

「……ふっ、無防備だな」

 その、全てを預け切った寝顔
の唇をふにっと触った。
 笠野と今朝方約束した……い
や、正確には達海が勝手に約束
してしまった十日間のセックス
禁止がとても堪える。
 もちろん、寝込みを襲うよう
な真似はしないが、とはいえ十
日も達海に触れられないという
のはかなりキツい。

「安心しきって眠ってる達海さ
んとか、すっごいかわいいっス
よね」
「……お前は本当に達海さん好
きだよな、赤崎」

 世良にツッコまれて、赤崎が
頷く。

「好きっスよ」
「おいおい、丹波のことはどう
なんだ?」

 揶揄う気持ちで尋ねると、赤
崎はぷくーっと膨れて……やは
り相当酔っているようだ……か
ら反論した。

「達海さんのことは大好きっス
けど、丹さんのことは愛してマ
ス! 俺のカレシは丹さんだけ
なんスよ!」
「うわ、赤崎に惚気けられたっ!
初めて赤崎がデレるとこ見た!」

 世良が仰け反るくらいのデレ
具合は物凄く珍しいらしく、赤
崎は酔いが手伝っているのか普
段の生意気さ加減がナリを潜め
ている。
 こういうところが若さなのか
と思うが、達海もこういう反応
をするのだろうか、と思ってみ
て、いやいや、と思い返した。
 達海は自分と村越のどちらが
好きかと問えば膨れるだろうが、
例えば笠野と自分たちのどちら
が好きかと問えば確実に後藤と
村越だと答えるだろう。
 わかっている。
 わかってはいるのだが。

「……って、なにしてんだ、後
藤さん!」

 なんとなく面白くなくて達海
の頬をぶにっと摘むと、村越に
叱られた。
 スマン、と謝りながらも、後
藤は達海に思いっきりいやらし
いキスをしたいという衝動をも
のすごく我慢する。

「なんとなく、腹が立って」
「意味がわかんねぇよ」
「後藤さん拗ねてるー」
「拗ねてる!」

 若手にからかわれて、後藤は
苦笑いをするしかない。
 その通りだったからだ。




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