Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【61】
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 村越は怒った顔のままその視
線にちらりと情欲を垣間見せて、
しかしすぐにその色をしまいこ
んだ。
 そして、早く後藤を起こせと
目線で訴えてくる。
 達海は肩を竦めてから後藤に
向き直った。

「後藤、起きろ〜」
「……ん、」
「もうみんな来ちゃったぞ」
「……えっ!?」

 後藤の肩を揺さぶると、まだ
下着すらつけていない後藤が慌
てて飛び起きた。

「うわっ、えっ、なんで……!」
「なんでって、目覚まし掛けな
かったじゃん、お前」
「そっ……れ、知ってたなら教
えてくれよ!」
「なんで? いいじゃん。たま
の寝坊なんだし」
「たまって……俺はたまでも、
お前はたまじゃないだろ!」

 後藤の叱責に、達海はぷくっ
と頬を膨らませた。
 疲れているようだったから、
わざと起こさなかったのだ。
 いや、それが社会人としてダ
メなことは知っている。
 知っているが、後藤のことを
大事にしたかったのだ。
 それは単に達海の我が儘だと
知っているものの、怒られると
いい気はしない。

「えっ、うっ……!」

 なので、後藤の首筋に噛み付
いた。
 思いっきり、ガブっとだ。

「痛っ……、達海!」

 犬歯の辺りにほんのわずかな
鉄の味を感じたところで口を離
した。
 嫌がらせ意外のなにものでも
ない。
 当然のことながら、後藤の首
筋、シャツの衿に隠れるか隠れ
ないかというところにガッツリ
と歯型が残る。
 滲んだ血は本当に滲む程度で、
達海はそのくっきりとした痕に
満足しながらいい笑顔を浮かべ
た。
 後藤が「あぁぁ……」と嘆き
の声を上げる。
 村越は得も言われぬ凶悪な顔
でこちらを睨んでいた。
 そのあまりの表情に、達海は
思わず吹き出す。

「……これからヤる、村越?」
「バカか!」

 村越にコクン、と首を傾げて
みせると、鋭い声が飛んできた。

「あんた、明日がオフなのわか
ってやってんだろうな」
「あ、そうだっけ。んじゃ、明
日は一日、村越と一緒だな」

 ニヒッ、と笑ってみせると、
後藤に頭を叩かれた。
 達海はそれに軽く唇を尖らせ
て、夕べした後にちゃんとシャ
ワーを浴びたので汗ではない体
液は洗い流してある体にジャー
ジを羽織った。
 寝汗は掻いているが、気にな
るほどではない。
 なにより、抱き締められてい
る間についたのだろう後藤の匂
いを落としてしまいたくなかっ
た。

「んでもまぁ、昨日は一回だけ
だったし、だるくもないし。む
しろ調子いいよ、俺」
「あんたな……今夜から、覚え
てろよ?」

 後藤に抱かれて、心も体も充
実している達海の様子に苛立ち
を覚えたのか、村越が凶悪な顔
で睨んでくる。
 後藤は重くため息をついて、
けれどぐっと達海の襟首を引い
て頬に唇を寄せた。

「ん、なに、後藤?」
「おまじない」
「なんの?」
「村越とふたりっきりになって
も、俺のこと忘れないように」
「……バカ」

 くすぐったい思いでついた悪
態は、後藤の柔らかな笑みに飲
み込まれる。
 後藤に髪をクシャクシャと撫
でられて、達海はふっと笑った。

「……いい加減にしねぇと、今
すぐ押し倒すぞ、この!」

 怒鳴ったのは村越だ。




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