Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【56】
3ページ/4ページ

 その瞳の奥に、試合に臨む真
剣さとは違う熱が宿っているこ
とに気づいて、後藤は苦笑した。

「どんなプレイだよ。だいたい、
そんなの堪えられるわけないだ
ろ。お前が他の男に抱かれてる
とこなんて見たら発狂しそうだ」
「えー、村越だぜ?」
「村越でも。三人でするならま
だしも、手を出せない状態で黙
って見てるなんて無茶な話だ」
「じゃ、三人でしようよ」
「だから、それは村越が拗ねる
だろ」

 どんな問答だ、と思いながら
達海の髪をくしゃくしゃと撫で
ると、酷く面白くなさそうな顔
で唇を尖らせる。
 それに笑うと、達海はブスく
れたままでツン、とそっぽを向
くとそのまま部屋へと引っ込ん
でしまった。
 耳を澄ますとすぐにDVDが
再生され、試合の音が流れてき
て、後藤は卵サンドとサラダで
も買ってテーブルの上に乗せて
やろうと外に出た。
 すると。

「あれ、まだいたのか、椿」
「は、はい!」

 顔を真っ赤にした椿がそこに
いて、後藤はしまった、と思っ
た。
 どうやら達海との会話を聞か
れたらしい。
 いや、椿自身は三人の関係を
知っているし、かつそれをどこ
に口外するでもないのだが、な
にしろ椿は達海に惚れている。
 おまけに若い。
 以前、達海をオカズにして抜
いたという事実が判明したこと
からも、彼が達海に対してどこ
までの好意を持っているのなど
尋ねるべくもなかった。
 それが、後藤を誘う達海の言
葉を聞いてしまった椿にとって
どれほど刺激的なものか、想像
するに難くない。

「……想像するなよ?」
「えっ、な、なにをっスか?」
「達海の裸」
「っ!」

 無理だろうな、とは思いなが
ら釘を刺すと、案の定、椿は固
まってしまった。
 おそらくは会話を聞きながら、
すでに達海の肢体を思い描いた
のだろう。
 椿は村越が達海を抱くところ
も、着替えの為に達海が服を脱
いだ姿も見ているのだ。
 想像するなという方が酷では
ある。
 だが、だからといって自分の
恋人の裸体を他の男が妄想する
のを許すほどに寛容でもない。

「次に達海で抜いたのがバレた
ら……」

 言えば、椿が蒼白になってゴ
クリと唾を飲んだ。

「二度と達海と会話できると思
うなよ?」

 ニコリと笑って言ってみると、
椿は目に見えて慄いた。
 それはおそらく、椿が最も恐
れることのひとつだろう。
 大好きな達海の視界に、十年
後には入ると宣言したのは、後
藤の記憶にまだ新しい。
 故に、脅しておくにこしたこ
とはない。
 達海が他の誰かに持っていか
れることなど、もう考えたくも
ない。
 過去には何度も願った。
 達海がこの十年の間に、誰か
……そう、ちゃんと彼を愛して、
支えてくれる女性と愛し合って
くれていればいい。
 そうすればこの想いに決着が
ついて、たとえ自分が一生この
想いを抱えたままでも、達海は
幸せになれる。
 自分も、よき友人として彼を
見守っていけるのだと、何度そ
う思ったかわからない。

「し、しませんっ……!」
「そうか。そうだな、それがい
い」

 ガクガクしている椿に爽やか
な笑顔を向けて、後藤は自分が
偽善者だな、と思う。




.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ