Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【56】
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 それでも山形戦の作戦につい
てこれだと思うなにかを見つけ
たらしい達海に、いいから飯に
行くぞ、とは言えなくて、後藤
は達海の、いまは下がっている
前髪を抓んだ。

「無理はするなよ」
「……うん」

 うるさいことは言うまい。
 自分の思いは、きっと達海も
わかっている。
 そう信じてそっと額に唇を寄
せた後藤に、達海がコクンと頷
いた。
 少しだけ子どもっぽい仕草に
微笑んで、後藤は達海の背中を
軽く叩いた。
 すると達海は少しだけ息を吐
いて、それから後藤の胸元を軽
く拳で叩いた。
 そうして自分の部屋に戻ろう
と一歩踏み出した達海を見送る
つもりでいると、不意に達海が
振り返り、行った一歩を素早く
戻って、驚く後藤の襟首を引い
て唇を触れ合わせる。

「っ、」

 柔らかな感触に指先が震えた。
 このまま抱き締めて深く口付
けたい衝動に駆られるのをなん
とか堪える。

「……山形戦終わったら、ホテ
ルで村越に抱いてもらうけど」
「おい、」

 なんの予告だ、と続けようと
した後藤に、達海が蠱惑的な笑
みを浮かべる。

「後藤も抱いてくれる?」

 こいつ、少し前まで自分から
したいとか言うの恥ずかしいと
か言ってた癖に! と思わなか
ったわけではない。
 だが、達海の表情の中にどこ
か切羽詰った様子が見てとれて、
後藤はごくりと喉を鳴らして言
葉を飲み込んだ。

「帰ってきたら、翌日はオフだ
ぞ」
「だね」
「次のオフ、一日一緒に過ごす
って約束だったろ」
「そうだよ。約束」
「村越が拗ねないか? 山形戦
の後、お前を独り占めできなか
ったら」

 この間の村越が結婚している
とかいないとかいうちょっとし
た騒動の際、達海は村越と抱き
合ったはずだ。
 翌日の達海は穏やかで、かつ
淡く性の匂いを漂わせていた。
 それに気づけるのはきっと後
藤だけだろうが、少なからず嫉
妬したことは間違いない。
 それを、次のオフは達海を独
り占めできると思うから我慢し
たのだが、逆に言えば村越の方
は一日達海を独り占めできる後
藤を羨ましく思うだろう。
 三人でやっていくと決めたか
らには、達海と村越の関係もこ
じれさせるわけにはいかない。
 後藤の心情がどうであれ、き
っとそれは村越もそう思ってい
るだろう。
 だから、あの日、達海を宥め
たのが後藤だと気づいていても
何も言わないでいる。
 ただ一瞬、後藤を見る目線だ
けが酷く厳しかったことは、達
海には言っていない話だ。

「拗ねるだろうね。俺、次のオ
フにお前と一日一緒にいるって
宣言したし」
「……おいおい」

 それはさすがに可哀想だろう、
と思ったが、達海はニヒ、と笑
ってから細い指先をついっと滑
らせて後藤のベルトに指を引っ
掛けた。

「だから、村越とするとこ、し
ばらく見てて。終わったら後藤
が抱いてよ」

 くっとズボンごとわずかに引
っ張った達海は、どうやらした
いらしい。




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