Important Gift

□大空に向かって愛を叫べ
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時刻は既に15時を過ぎた。
かれこれ30分近くも机の下に隠れていた達海に、そろそろ出て来て貰おうと後藤は椅子を引いた。

「達海。もう時間になったから出ろよ」

「ん、うん……」

机の足を掴んで這い出ようとした達海の手が、後藤の膝を掴む。
そのまま動かなくなった達海に首を傾げていると、ぐっと眉を寄せた達海が後藤を見上げた。

「ゴトー……」

「どうした、達海?」

「あ、足……痺れた」

「お前、さっき痺れてないって」

「今っ! 今痺れたのっ!」

動けない、と足に寄り掛かってくる達海に、後藤は両手を差し延べて、椅子に座らせようと立ち上がった。
両腕を掴んで引き上げる。

「−−あっ」

カクン、と折れた膝に咄嗟に背中に腕を回して抱き留めた。

「実はかなり痺れてるだろ」

腕にしがみ付いて来た達海に溜息混じりで呟くと、むぅ、と達海の唇が尖る。
こんな狭い所でしゃがみ続けていれば無理もない。

(何もこんな所に隠れなくてもいいのに)

もう何度目かわからない溜息を吐きながらも、後藤は達海の体を抱え直して椅子に座らせた。
ゆっくりと足を伸ばす達海に悪戯心が湧いて、そっとふくらはぎを蹴ってみる。

「〜〜ッ?! ばっ、ばかっ! 触んなっ!」

「ああ、悪い。ちょっとぶつかった」

涙目になった達海にベチリと腕を叩かれながら体を離すと、「ねぇ、」と背後から声が聞こえた。

「ボクのタッツミーを迎えに来たんだけど、邪魔するよ」

開けっ放しだったドアに腕を組んで寄り掛かっていたのは、かくれんぼに参加していたとはとても思えないジーノだった。

「おい、俺がいつお前のモノになったんだよ」

涙目で睨んでくる達海に、ジーノは両手を広げて肩を竦めた。

「タッツミーを泣かせてもいいのはボクだけなのに」

「……お前、ホントはバカだろ」

緩く首を振るジーノに、呆れた達海は憐れむ様な視線を送る。
いつ代表に呼ばれてもおかしくない逸材で、見た目もまぁ悪くないのに、発言が痛いのが残念だ。

「もう少し待ってくれ。達海は足が痺れて歩けないんだ」

「……どこに隠れていたの?」

苦笑しながら達海の傍に近寄り、ジーノは顰めっ面の達海の肩に手を置いた。

「このままボクとドライブなんてどう? 絶対に見付からない場所まで連れて行ってあげるよ」

「却下。かくれんぼはもう終わったの」

ふくらはぎを軽く叩きながら時計を見上げる。
遠くの方から自分を呼ぶ声が聞こえて、達海は立ち上がると足踏みをして痺れ具合を確かめた。

「よし。んじゃ行くかー」

「−−お、おい?」

なぜか腕を引っ張られ困惑する後藤に、達海はニヒー、と唇の端を上げた。

「お前も混ぜてやんよ」



***



練習場に選手達を集め、彼等の顔を順繰りに眺めた達海は、腰に手を当てて実に楽しそうに笑みを浮かべた。
それはもう、悪い顔で。

「うわぁ……あの顔は危険だ」

「ど、どうしよう……」

眉と同じ様に肩を落とした清川の隣で、あわわと椿が震えている。
黒田や村越は相変わらず険しい顔でこちらを睨んできた。

「さーて。お前等への命令は−−」

もう一度、ゆっくりと彼等の顔を眺め、隣に立つ後藤にも念を押すように視線を向けた。
ビクッ、と肩を震わせた後藤に満足そうに笑う。

「今から俺への愛を大声で叫ぶことー」

「−−は?」

「え、と……?」

「「はああぁぁっ?!」」

「何スかっ、それっ?!」

予想もしていなかった達海の『命令』に、彼等は顔を真っ赤にしながら声を上げた。

愛を叫ぶ?
ここで? しかも皆の前で?

思わず周りと顔を見合わせた。
それぞれが達海に対して少なからず恋愛感情を持っている事を知っているだけに、やりづらい。

「んじゃ、1番丹波行きまーす!」

勢い良く手を挙げた丹波が、両手を口許に当てて息を吸った。

「達海さんが好きだーっ! 付き合って下さーいっ!」

「はいはーい。2番石神行きまーす」

ノリの良い丹波が名乗りを上げると、石神が続き、同じ様に叫ぶ。
それに若手が乗っかって、次々と達海への愛が叫ばれる。

「ねぇ、タッツミー。ボクはベッドの上で囁く方がいいな」

「ダーメ。お前も叫べ」

肩に腕を回してきたジーノに笑顔で『命令』すれば、珍しく嫌そうな顔をした。

「なぁ、達海。俺も……その、叫ぶのか?」

「当たり前だろ? 演技下手くそなんだもん。後藤は罰ゲームな」

ニヒヒ、と笑う達海に後藤はガックリと肩を落とした。

「監督が好きっスーッ! 大好きっスーッ!!」

青い空に吸い込まれて行くような彼等の愛の告白を聞きながら、達海は少しくすぐったさを感じた。
困った顔をしてる奴等を弄るのも楽しいが、素直に叫ぶ奴等も愛おしく思える。

(俺もお前等が好きだよ)

いつかこいつ等に叫んでやろうと思いながら、達海は青い空を見上げて目を閉じた。




END.
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