Short Story

□聖なる夜も騒がしく
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「え、」
「ちょっ、と!」
「あー……」

 あ〜ぁ……という長いため息
が全員の口から漏れる。
 なぜならば。

「後藤がアタリ〜?」
「みたいだな」
「なんだぁ、つまんねーのぉ!」

 どうせお前の言うことなんて、
離れろ、とか言うんだろ? と
唇を尖らす達海に、後藤がわず
かに首を傾げた。

「そうだな……じゃあ、予想外
のことでも言うか」
「ん、なになに?」

 面白いこと? と期待した達
海に、後藤が苦笑する。

「上向け、達海」
「ん……?」

 言われて、上向くのの何が予
想外なんだ、と思いながら顔を
上向けた達海の目に、深い黒が
見えた。

「……、」

 ちゅっ、と唇をなにかが啄ん
で、達海の腰に腕が回る。
 その瞬間、全ての音が消え去
って……次いで奇声と怒声が飛
び交った。

「後藤さんっ!」
「狡いーっ!」
「なにやってんスかっ!」

 などという、そんな怒号もな
んのその。
 後藤のキスは深くなっていく
ばかりで、止む気配のないまま
何度も口づけられる。
 後藤の右手がミニスカートの
裾から入り込み、左手は太腿の
内側を何度も撫でていく。直接
肌に触れられる感覚に、達海の
頭が沸騰した。
 ゾクゾクと背筋を這い上がる
変調の兆しを感じた達海だった
が、酒の回った体が言うことを
きかない。

「ん、ンぅ……、」

 息も継げないほど激しいキス
と脚や尻を撫で回す手に翻弄さ
れる達海が鼻を鳴らすと、ぎゃ
ーぎゃー騒いでいた周りの声が
一斉に止んで、達海からこぼれ
る甘ったれた音を拾う方に専念
し始めた。
 密着している後藤の一部も、
形が変わり始めている。

「……ハァっ……ごとー……、」
「ん……? なんでもするって
言ったろ、達海?」
「でも……人前じゃ、ヤダ……」
「もう少し、な。俺はあいつら
に見せ付けてやりたいんだ」

 耳元で囁く後藤の声が腰に響
いて、達海は自分が後藤を怒ら
せたのだと感じたが、なぜだか
はまるでわからない。
 ただ、後藤が本気でこのまま
致すつもりだとぼんやり気づい
て、達海はそのまま後藤にもた
れ掛かった。
 確かになんでもすると言った
し、シたいし、人前だというこ
とは忘れてしまおう……などと、
アルコールの魔力で思ってしま
うのが恐ろしいところだ。

「しょーがないなぁ……後藤の
好きにして、いいよ……?」

 その言葉に、選手たちが再び
猛抗議したのは言うまでもない。




「で、お前はなんで怒ってたん
だよ?」

 明けて翌二四日、乱れたサン
タガールのスカートの裾を直し
ながら尋ねると、後片付けをし
ていた後藤は振り返りながらそ
のスカートの裾を摘んだ。

「こんなの穿いてはしゃぎまく
って、俺以外の男に中身が見え
たなんて、腹立つに決まってる
だろ?」

 中身。
 男の下着など着替え中に見慣
れている連中だろうに、いまさ
らではないのか。
 そう呟くと、渋い顔で睨まれ
た。

「おまけに、アタリが出たらな
んでもするなんて言って……あ
いつらが考えたことなんて、や
らしいことしかなかったぞ、き
っと」
「やらしいのは後藤でしょー。
赤崎とか真っ赤だったじゃん」

 結局全員が明け方までクラブ
ハウスにいたのだが、赤崎や熊
田あたりは真っ赤なまま帰って
いった。
 とんだクリスマスパーティー
になったと思っているだろう。

「来年は普通のサンタの服にし
てくれよ」

 クスクス笑う後藤の背中にパ
ンチを見舞って、達海はキラキ
ラ光るツリーを見上げる。
 なんだかんだで夕べはとても
楽しかった。

「みんなでクリスマスすんの、
いいよね」

 呟いた達海の肩を後藤が抱く。

「じゃあ、ふたりきりのクリス
マスも、楽しませなきゃ愛想尽
かされるな」

 すっかり酔いの覚めた達海は
その肩に頭を乗せながら、世界
中の人に分けても失くならない
くらい、俺って幸せかも、と思
った。

「あ、雪……」
「本当だ。どうりで寒いと思っ
た」
「じゃ、残ってる肉まん食おう
ぜ。美味いよ、あれ」
「だな。あっためて食べようか」

 ロマンチックとはほど遠い会
話が心地いい。
 そんな風に寄り添う二人の姿
を、


 舞い始めた雪だけが見ていた。





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