Short Story

□聖なる夜も騒がしく
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「うっわ、後藤さんめっちゃ役
得じゃないスか」

 羨ましい、と言い出したのは
矢野で、達海は思わず、んー?
と首を傾げた。

「羨ましいって、意味がわかん
ないや。ね、後藤。ちょっとこ
れ持ってて」
「ん、え、どこ行くんだ達海?」

 ビールを後藤に預けて、達海
はふらりと立ち上がる。

「トイレー」

 言って会議室を出ると、ひと
つ息を吐いてから自分の部屋に
戻ってロッカーからずるっとあ
るものを取り出した。

「ニヒー、あいつらどんな顔す
っかな」

 ゴソゴソと着替える達海は、
実は既にそこそこアルコールが
回っている。
 なんとなく気持ち良くなって
きて、誰かに抱き着きたい気分
だ。
 ん〜……と伸びをして、達海
はぺたぺたと廊下を歩く。

「あ、タッツミ……!?」

 入口付近で、来ないはずのジ
ーノと出会った。目を丸くして
いる。

「お〜、ジーノぉ! おっ前ぇ
……来ないんじゃなかったの?」
「いや、あのね……タッツミー、
その……!」
「ぅん……? あーまー、あれ
だ……遅れてきたのはいーや。
お前もおいで〜」

 さぁ、と手を差し出した達海
に、ジーノが酔ったような顔で
手を伸ばした。

「……あれっ?」

 ふらふらと歩き出した達海に
つられたジーノがはっと意識を
取り戻したのは、もう会議室の
前についたときである。

「ちょ、ちょっと、タッツミー!
その格好はダメ、って……」

 ジーノの制止など耳に入って
いない達海がバーン! と盛大
にドアを開けると、全員の視線
が一気に集まって、ニヒッと笑
った達海がジーノの手を離して
白くて大きな袋を持ち上げた。

「プレゼントだよ〜!」

 まぁ、中身はセールコーナー
で見つけたサッカーボール型の
チョコが詰まったクリスマス恒
例、小さな長靴だ。
 これ全部くれる? と言った
ときの店員の反応は実に面白か
った。
 だが、選手及びスタッフ一同
が目を見開いたのはプレゼント
が理由ではない。
 ではなにか。
 それは……

「なんでサンタガールなんだよ
っ!」
「なっ、生足……!?」

 そう、某コスプレちっくな衣
装も色々売ってる便利な店でサ
ンタクロースの服が売り切れて
いた為、他の店に行くのが面倒
になった達海はよりによって、
売れ残りのサンタガール……つ
まりはスカートを穿く方向でサ
ンタになることをチョイスした
のだ。

「か、監督ーっ! なんて格好
してるんですあなたはっ!?」
「んー? アハハ、松ちゃん顔
真っ赤じゃーん! はい、トナ
カイのカチューシャ!」
「や、やめてくださいよちょっ
とっ!」

 松原に無理矢理トナカイの角
と赤くて丸い鼻をつけさせ、達
海は満足である。

「はい、これー」

 結局、松原にもプレゼント配
りを手伝わせている達海のスカ
ートの裾から覗く太腿を、その
場にいる全員が気にしているこ
となどまるで気づかないのは酔
いのせいだ。

「反則だろあの脚……」
「触ったら怒るかな」
「怒るっつーか、本人以外から
シメられるだろうな、間違いな
く」

 などと囁かれていることを、
達海だけが知らないのもいつも
のことである。
 ニャハハーっと、上機嫌な達
海は全員に赤い小さな靴を配り
終えると、松原と肩を組み……
正確には無理矢理すぎてほぼ首
を絞めているような状態で、達
海はちょいちょいと靴に着いて
いるタグを指差した。

「タグ?」
「なんだ……ハズレ?」

 村越がかくんと首を傾げて、
各々がタグを確認する。

「アタリの奴にはー、ご褒美ぃ!
なんでも言うこと聞くぞ〜!」

 いつの間にか、コーチ陣が持
っていたワインを二杯ほど引っ
掛けた達海は、止めに入った後
藤から預けたビールを奪い取る
と、残りを開けてからそう宣言
し、それからぎゅうっと後藤に
抱き着いた。

「こ、こら、達海!」
「ん〜……んふふ〜……気ぃ持
ちいい〜……」

 猫の子のように後藤に擦り寄
る達海に、全員がギャーッ! 
と叫ぶ。

「アタリはっ!? 誰か引いて
ないんスか、アタリっ!」

 なんでもいいから達海を後藤
から引きはがせ、とばかりに怒
鳴る赤崎に同意した者がアタリ
探しに努める中、なかなか「当
たった!」という者が現れない。

「ちょっと、タッツミー! ち
ゃんとアタリ、入れたんだろう
ね!?」

 麗しの王子様までいつの間に
か完璧に周りと同化している。

「入れたよ、ちゃんと書いたも
ーん。おーい、アタリはどこい
った〜?」
「ないっスよ〜!」
「俺もハズレた……」

 世良や椿もしょぼんとしてい
る中。

「……あ、」
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