Silent Sweetheart 【派生】

□One Day >> Can you love me ?
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 一瞬でもドキリとした自分は
バカだ。
 堀田は眉間を抑えながらガッ
クリする。
 だが、抱き着いてくる手は思
いの外強くて、堀田のパーカー
をぎゅっと握っている必死さに、
剥がすのも可哀相だと思うのは
甘いのだろうか。

「……ったく、どうせなら達海
さんの夢でも見られたら良かっ
たのにな」
「たつ……み、さん……」

 堀田の声が影響したかのよう
にぽつんと呟いた声は少し切な
い気がして、堀田は後ろ手に石
神の頭を柔らかく撫でた。
 達海のことは、堀田も好きだ。
 監督として以上にキレイな男
だと思う。
 なにより自分にも他人にも潔
いところに惹かれて、けれど石
神のように達海を抱きたいと思
うような強さの想いではないの
だと、さっき気づいた。
 仮に達海を抱ける機会がきた
として、堀田では明らかに役者
不足だろう。
 火遊びで手を出す相手ではな
い。
 かといって、本気になるには
遠い相手だ。
 この歳になってまで、子ども
のように誰かに憧れるなんて思
わなかった。
 石神の腕は少しだけ緩んだが、
手だけはぎゅっとパーカーの裾
を掴んでいる。
 堀田は離してくれる気配のな
い石神の頭を撫で続けた。

「……俺のはただの憧れなんだ、
石神さん」

 聞こえるはずのないことを呟
いてみる。
 もし聞かれていたら、意味を
問われたろう。
 そうなったら、自分は答えら
れるだろうか? 思っているこ
とをちゃんと伝えられるだろう
か。

「う……堀田……」

 考え込んでいると、また石神
に呼ばれた。
 どうしても自分の夢を見てし
まうらしい。
 いったいどんな夢を見ている
のだろう?
 ふと思い付いて、空いている
ほうの手で石神の手を包む。思
っていたよりずっと滑らかな手
だ。

「…………すき……だ」
「……、」

 石神が何かを呟いて、堀田は
咄嗟に聞き取ることが出来なか
った。
 だが、なにか大事なことだっ
た気がする。
 堀田は撫でる手を止めて体を
捻った。

「石神さん、」

 起きろとは言えないものの、
酷く気になる一言を放たれて胸
の中がざわつく。
 堺に言われたことが浮かんで
きて、堀田は自分が激しく動揺
していると気づいた。
 そんなバカな。石神が好きな
のは達海のはずで、だからこそ
こうして荒れているはずなのに。
 いや、所詮夢は夢だ。
 現実と違っていても問題はな
いし、「堀田」と「好きだ」が
繋がっているとも限らない。
 考えれば考えるほど泥沼には
まりそうな思考が限界に達して
停止するまで、堀田は様々なシ
ミュレーションを繰り返した。
 頭の中を誰かに覗かれたら確
実に爆死できるというような妄
想まで突き抜けたところで、ふ
と馬鹿馬鹿しさに気づいてため
息をつく。
 いつまでもしがみつかせてい
るから悪いのだ。
 引っぺがしてしまえば、妙な
夢も消えるだろう。
 堀田は冷めた思考で石神から
逃れ、逃れる為に犠牲にしたパ
ーカーをそのままに、黙って石
神の部屋を出た。
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