Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【15】
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 震える手で目元を拭う。涙は
止まらず、本当はたまらなく村
越に抱き着きたい。自制と恋し
さの対決なんて、風邪っぴきに
は酷だ、と心底思った。怠くて
動くのも話すのも億劫なのに、
心細くて仕方ないのだ。

「……、」

 ピッピッとボタンを押す音が
して、村越が電話を掛けている
気配がする。
 無性に村越の手を握りたくて、
達海は再び頭から布団を被った。

「達海さん、後藤さんはすぐ来
る。俺はいない方がいいか?」

 村越の真剣な声に、布団の中
で首を振った。

「そこに、うっ……く、いてよ
……」

 嗚咽が混じるのを制御できな
い。
 体がつらくて、一人では居た
くなかった。

「わかった」

 村越が、ドアの向こう側で床
に腰を下ろす気配がする。

「……む、らこ、し」
「なんだ」
「き、嫌いになる、とか嘘……
好き」
「……あぁ」
「好き、好きだ、好き……大好
き」
「……」
「だから、怒んないで……!」

 言っていることがめちゃくち
ゃだ。支離滅裂だ。意味不明だ。
 わかっているのに止まらなか
った。
 母親に叱られた子どもみたい
だ、と思って、自分の感情のメ
ーターが振り切れているのだと
気付く。
 そういえば俺ってちっちゃい
ときから、滅多に引かない風邪
になると思いっ切り手のかかる
奴だったような、と回想するが、
壊れた涙腺と吐き出した譫言は
元に戻らない。
 肺も限界に達して止められな
くなり、何度も激しく咳込んだ。
 頭が痺れたようになっていく。

「……別に、怒ってなんかねぇ
よ」
「ほんと、に?」
「あぁ。心配なだけだ」
「……嘘つき。やっぱり、怒っ、
てんじゃん……」

 硬い声は、間違いなく怒って
いる。聞き分けなどたやすい。

「あんたにじゃねぇ」

 ――じゃあ、何に?

 そう聞こうとしたとき、慌て
た足音が近づいてきた。

「達海!」
「ご、とう……」

 ホッとした。
 相変わらず涙は止まらないし
体の震えも収まらないが、達海
は後藤の声に心の底から安堵し
た。

「入るぞ!」

 ガチャ、とドアが開く。
 後藤が布団を捲って、丸まって
いる達海の姿に絶句した。

「……保険証は」
「ロッカー……左から、二番、目
……財布……」

 答えると、後藤は保険証の入っ
た財布を見つけて中を確認した。

「よし。救急病院行くぞ。村越、
自販機からスポーツ飲料買ってき
てくれ。あと、病院行ってる間に
ドラッグストアで氷枕と冷えピタ
も頼めるか? あぁ、医務室のが
どこにあるかわかってたら、それ
でもいい。鍵開けるから」
「いや、買ってくる……どんな感
じなんだ」
「熱がかなり高そうだな。インフ
ルエンザとかじゃないといいんだ
が……」
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