Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【67】
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 達海はその日、珍しい人物と
対峙していた。
 いや、彼と対峙するのは珍し
いことではないのだが、だがし
かし、こうしてふたりきりで正
面切って向かい合うことは記憶
にない。
 ユナイデットスカルズのリー
ダーとは。
 赤崎と椿が代表に選ばれた少
し後、花火を見ながらぼんやり
していた達海は、大勢の人の輪
に混ざったり混ざらなかったり
しながら夜空に咲く大輪を眺め
ていたのだが、花火が終わって
それぞれが帰路に着いたあと、
クラブハウスの屋上から降りて
きた彼と、たまたま鉢合ってし
まったのだ。

「……で、なんで俺らはこうな
ってんのかね?」
「知るか! あんたがついてき
たんだろうが!」

 ふたりでいるのは近所のラー
メン屋で、別に達海は彼につい
てきたわけではない。
 小腹が空いたので何か食べよ
うと思って歩いていく方向がた
またま同じだけだった。
 で、ついでなので、なぁ、ラ
ーメン食いたくない? と尋ね
てみたところ、ここに連れてこ
られたのだ。

「ラーメンは何派?」
「……醤油」
「へー! 俺は取りあえず、塩
で。野菜たっぷりっつーのあん
な。おっちゃん、これ!」

 小さな店の二人掛けのテーブ
ル席から言うと、あいよ! と
声が返ってきた。
 ラーメンは好きだ。
 本当はライスかチャーハンを
つけたいところだが、今日はな
んとなくやめておく。

「で?」
「あん?」
「ちょっとはスッキリしたのか
よ? えー……っと、」
「……羽田だ」
「そう、羽田くん」

 ニヒッ、と笑うと、羽田は今
日はグラサンを掛けていないの
で年相応の顔に苦い物を噛んだ
ような表情を浮かべた。

「ETUがガンガン勝たねぇと
スッキリなんかするか!」
「あはっ! だよな!」

 笑うと、羽田がため息をつく。
 まだ三十前だろう羽田は、椿
たちより年上で、けれどそのあ
る種の貫禄は大勢の人間を束ね
て統率力のある応援をしている
という意味で、かなりのものだ
った。
 羽田のリーダーシップは、ど
こか村越にも似ている。
 まっすぐで力強くて、けれど
少しだけ柔らかさに欠けるとこ
ろが。
 反するものを受け入れるのに、
達海のように「いいものはいい
んだから」と簡単にはいかない
ところが近しいのかもしれない
が、それはきっと、自分や笠野
に対する頑なな思いがそうさせ
ているのだろう、と、達海は察
していた。
 事実がどうであれ、世間から
見れば自分はETUを裏切った
男だ。
 笠野は、見捨てた男。




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