Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【65】
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 達海はクラブハウスの中を疲
れて猫背気味になりながら進ん
でいた。
 頭の中もぼやーっとしている
し、目もショボショボするし。
 俺、相当疲れてんな、と自覚
しながらも、一番の癒しである
後藤や村越との触れ合いは自ら
十日間お預けとしているので、
できない。
 悶々としている達海を見て、
笠野が「……せめて半分にして
おいてやればよかったか?」と
顎を扱いていたが、そんなこと
ら気づかず、達海は悲しいかな、
酷い顔で資料をバサバサと落と
しながら歩いていた。

「あれぇ、達海さん、なんかす
っごい顔してますけど……どし
たんスか?」

 尋ねてきたのは清川で、宮野
と椿とガブリエルが……そして、
ガブリエルの専属通訳である鹿
賀も続いている。
 練習終わりの時間帯、もちろ
ん練習自体はしっかりと観てい
たし、疲れていることなど微塵
も思い出さなかった達海だが、
少しばかり気が抜けた瞬間にガ
クっと疲れがくるのは仕方ある
まい。

「ん〜? どうしたもこうした
もないよ。欲求不満?」
「えっ、」

 ザワ、とそこら中がざわめい
たことに気づかない達海が、ほ
んと、参るよなー、などと言う
ものだから、選手たちの視線が
一斉に村越を見る。
 あの村越さんが、達海さんを
欲求不満にさせてるとか……!
という視線だ。

「村越さん、なんかあったんで
すか、達海さんと。喧嘩……じ
ゃ、ないスよね?」

 事情を知らない杉江に尋ねら
れ、村越は若干ながら肩を落と
した。

「別に、喧嘩じゃねぇんだが。
ちょっとな……笠野さんと、禁
欲生活十日間の約束しちまって」
「えぇっ!?」

 大げさに驚く杉江が注目を浴
びて、達海も振り返る。
 村越と視線がかち合って、あ、
と思ったときにはまずかった。
 腹の底から湧きあがる、どう
しようもない想いが抑えきれず
に村越に近づいていってしまう。

「達海さ、ンっ、」

 気づいたときには、村越の襟
首を引いて、自ら唇をねだって
いた。
 選手たちが見ている前で。

「うわっ!」
「わーっ!!!」
「oh……!」

 ガブリエルですら驚く濃厚な
キスに、選手たちが騒ぎ出す。

「ちょっ! なにしてんスか達
海さんこんなとこでーっ!?」

 舌を絡めて夢中になっていた
達海を、抱き締めてしまうと止
まらなくなる自覚のある村越の
手が、それでも引き剥がすこと
などできずに宙を掻いていると、
こういうときにはその生意気さ
が強い武器なる赤崎が達海の体
を村越からベリっと引き剥がし
た。

「んっ……、」

 村越の舌から糸を引く唾液が
ぷつんと切れるのを見ながら、
達海は自分の渇きがほんの少し
満たされた気がして、濡れた唇
をぺろりと舐める。

「でもやっぱり、キスだけじゃ
足りないね」




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