Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【64】
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 達海は、後藤の部屋で目覚め
た。
 んん、と伸びをして、自分が
昨日の服のままであると気づく。

「……あれ、えっとぉ」

 酔っぱらってセックスをする
とどういうことになるか、達海
は自分と後藤の初手がそうであ
ったのでよく知っている。
 だから、今回は何もなかった
のだな、とほんのわずかに残念
な気分で息を吐いて、それから
笠野とした十日間の禁欲条例を
思い出した。

「起きたのか、達海」
「うん。おはよ、後藤。ていう
か、俺、なんで後藤の部屋にい
るわけ?」

 尋ねると、後藤は苦笑しなが
ら達海の寝癖がついてあちこち
に跳ねた髪の毛を撫で、それか
ら額に唇を寄せる。

「んっ、こら、ちゅーすんな」
「キスはいいんだろ?」

 笠野との決め事を決めたのは
達海なので、後藤に言われると
ぐうの音も出ない。
 しかし、達海は達海で、キス
をされると体の中に燃え上がる
ものがあるので、重ねてキスを
しようとしてくる後藤をぐいっ
と掌で押して避けた。

「お前、わかっててやるのやめ
ろ!」
「達海が勝手に、笠野さんと約
束しちゃったから悪いんだろ?」

 後藤に言われてカッとなる。
 達海はベッドから下りて、ハ
ンガーに掛けてあったジャケッ
トに手をかけた。

「達海?」
「帰る」
「おい、本気か?」

 慌てる後藤を無視してジャケ
ットを羽織り、達海は玄関まで
一直線だ。
 靴を履いてドアノブに手をか
けると、不意に達海の体が浮い
た。

「……離してくんない?」
「嫌だ」
「帰ってやることあんだよ」
「……」

 後ろからギュッと抱き締めて
くる後藤の腕を引きはがす。
 肩越しに見ると、後藤は酷く
情けない顔をしていた。
 それを見て、普段なら折れる
であろう達海が、この時は無性
に腹立たしいばかりで、ふいっ
と顔を背ける。

「じゃあな」

 短く言ってマンションを出る
と、偶然にも隣に住んでいる大
学生が出るタイミングと重なっ
た。

「あれ、」
「おっ、よぉ!」
「ども。あれ、泊まりだったん
スか」
「まーね」
「……それにしては、なんか」

 以前、後藤を一晩部屋の前で
待ち続けたときに会ったっきり
の青年は、達海の顔を見て口を
噤んだ。
 きっと、浮かない顔をしてい
る、と言うつもりだったのだろ
うが、踏み込むことを止めてく
れたのは有難い。

「……あっ、サッカー、応援し
てます!」
「おっ……おー、ありがとな!」

 いつの間にか、彼は自分がE
TUの監督であるということを
知ったらしい。
 ぐっと拳を握って力強く言っ
た青年に笑みを返して、達海は
足早にマンションを後にした。
 留まっていると、後藤が追い
かけてきてしまいそうだと思っ
たから。




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