Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【63】
1ページ/4ページ

 後藤は、その着信に眉根を寄
せた。
 過去、村越からの着信は一度
だけ。

 ――また、達海になにか、

 風邪をひいて高熱を出して、
ボロボロと涙を零していた達海
の姿を思い出してゴクリを喉が
鳴った。
 あの姿を目にした時の様々な
感情の発露は、後藤にとって酷
く苦いものとなって記憶されて
いる。
 いや、しかし今夜は、達海は
確か石神たちと呑みに行くと言
ってニコニコしていたはずだ。
 村越がどうしていたのかは知
らないが、少なくとも前回のよ
うな内容ではないだろう、と心
を決めて通話ボタンを押すまで
におよそ十秒。

「はい」
『後藤さん、悪いんだが、迎え
に来てくれねぇか』
「……ん?」
『達海さんが潰れた』
「あぁ、呑みに行くって……、
いや、お前がクラブハウスまで
連れて帰れよ」

 最初の一報が自分に入らない
ことへの不満だろうか、思って
もないことを言ってしまう。
 本当は、いますぐに行って達
海の世話を焼きたい。
 後藤は子どものように拗ねて
いるらしい自身を自覚して眉間
を揉んだ。

『後藤さん家の方が近いんだ。
俺も呑んだから車じゃねぇし、
もし二日酔いとかになってたら
かわいそうだろ?』
「……」

 タクシー使えよ、とか、お前
が世話してやればいいんじゃな
いのか、とか。
 やっかみやら嫉妬やらが一瞬
のうちに後藤の中で膨らんで、
膨張しすぎて破裂した。

「わかった。いま、どこだ」

 大きく溜息をついてからそう
言うと、村越が誰かに何かを聞
いている気配があって、そして
住所が告げられる。

『石神の家だ』
「なんだ、宅呑みだったのか?」
『二次会がな。俺は堀田と、達
海さん迎えに来たんだが……寝
ちまったんだ、達海さん』
「あぁ」

 意外だったので尋ねてみると、
なるほど、と納得した。
 堀田と村越が呑んでいたとい
う話は後藤にとってどうでもい
い話なので……選手同士、そう
いうコミュニケーションは必要
だろうな、というくらいは感じ
るが……さしたる興味はなかっ
たが、楽しく呑んだ達海がアル
コールに流されてその場で眠っ
てしまうことはよくある話だ。

「……で、タクシーより早く来
ちゃうところが後藤さんっスよ
ね」

 赤崎にツッコまれて、後藤は
苦笑いを浮かべながらその額を
小突いた。

「うるさい。と、いうか、お前
らは寮に帰るのか?」
「の、つもりだったんスけど」

 と、困ったような顔の世良が
差し出してきたのは、意味の通
じない丹波からのメールだった。

「……さかいーた?」
「解読できなくて」

 首を傾げる世良に、後藤もハ
テナマークを浮かべる。

「酔っぱらってんスよ、きっと。
一緒に呑んでた堀田さんでさえ
あの有様でしたもんね。村越さ
んが通常運転のが逆にすげぇっ
ス」
「いや、あいつらだってそう酔
ってはなかったぞ……多分。前
後不覚になるまでは……いって
ない、多分。多分な」
「念押しすぎだろ、村越」

 呆れているらしい赤崎の言葉
に反論する村越は、それでもや
はり少し酔っているらしい。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ