Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【62】
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 村越は、凶悪な顔をしてやっ
てきた。
 真夏の夜のクラブハウス。
 ジワジワと蝉が鳴き、刺すよ
うな日差しが降り注ぐ昼間とは
違い、とっぷりと日の暮れた夜
はそれでもまだ暑い。
 達海はタンクトップにハーフ
パンツで、あいも変わらずDV
Dを見ていた。

「……うひゃっ!」

 達海が高い声を出したのは、
怖い形相でやってきた村越に気
付かなかったせいだけではない。
 気配を殺した村越が、項に滲
んだ汗をベロリと舐めとったせ
いである。

「ンなっ……村越!?」
「なんだ」
「なんだ、じゃねぇよ。声掛け
ろ声! 唐突に首を舐めるな!」

 怒鳴った達海に、村越がフン、
と鼻で笑い飛ばした。

「いいじゃねぇか、別に。誰が
見てるわけでもなし」
「よくねぇよ、ドア開けっ放し
で……って、ン、こら……待て
って、村越……」

 後ろから抱き締められて、胸
元をまさぐられ、達海は夕べ後
藤に抱かれたばかりだというの
に、ざわりと欲望が身の内を焦
がすのを感じて顔を赤くした。
 息を詰めて声を殺していると、
村越はその耳元でふっと笑って
から達海の体を優しく抱き上げ
た。

「今日は俺だけの達海さんだ」

 村越は嬉しそうに囁いて、達
海はもっと顔が熱くなるのを感
じて、太い首にギュっと抱き着
いた。
 こうして抱き締められている
と、どこの乙女かとツッコミた
くなるほど胸が高鳴って、これ
からこの男のものになるのだと
いうことが意識される。
 恥ずかしい、と思った。

「お前……照れるからヤメロ、
そういうこと言うの」

 唇を尖らせ、耳まで赤くなっ
た顔を見れらまいとする達海の
背中を撫でて、村越はまるでお
姫様でも扱うかのように自分の
部屋へと連れて行った。






「で、どんな感じだったんスか、
昨日の達海さん〜!」

 ギャハーっ! という勢いで
尋ねてきたのは丹波である。
 ここは堀田の行きつけの店で、
個室だ。
 呑みの面子は村越の他に、丹
波、堺、堀田である。
 ついこの間、堀田が提案して
きた「男」側での呑みが実行さ
れた。
 ちなみに今夜、達海は自分た
ちとは逆の立場の四人と呑みに
行っている。

「それを話し始めたら一晩掛か
るが、いいのか?」
「えーっ、そんなにスか!?」

 村越さんのスケベ! と、楽
しそうに賑やかす丹波に、堺が
鬱陶しいという顔をする。
 しかし、その顔がやや赤くな
っているところを見ると、興味
はあるが自分からは問えないと
いうところなのだろう。

「でも、俺も聞きたいな。達海
さん、村越さんにベタ惚れでし
ょう? そういうとこ、どうや
ってるのか気になりますよ」

 言ったのは堀田で、村越は意
外だと思って見た。

「堀田、お前、達海さんが俺に
ベタ惚れっていうように見える
のか? 俺が達海さんに、じゃ
なくて?」

 村越のその問いに、堀田がキ
ョトンとし、丹波と堺が顔を見
合わせた。

「な、なんだ?」
「……なんだって……」
「なぁ?」
「あぁ」

 三人は互いに頷いてから、ニ
ヤニヤと笑う……いや、主に丹
波がニヤニヤしている……姿に、
村越は嫌な予感がして体を引い
た。




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