Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【61】
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 夏の一夜、後藤と共寝して起
きた達海は、後藤の唇を指でな
ぞってから緩い笑みを浮かべた。
 後藤が笠野と自分を比べる必
要などないというのに、それで
も生真面目にヘコんでしまうの
が後藤なのである。
 そうと知っているからこそ、
余計に後藤が愛おしい。
 達海は、自分がそう思ってい
ることを意外に思いながら、そ
っと唇に自分の唇を重ねた。

「ん……」

 一度では足りずに何度か触れ
合わせるだけの口付けを続けて
いると、後藤が軽く唸って目を
開けた。

「たつみ……?」

 まだ微睡んでいる後藤の、ど
こかたどたどしい口調に笑みを
深くして、今度は鼻先に唇を寄
せた。

「もう、朝か……?」
「んー、四時過ぎ」
「なんだ、まだ夜明け前じゃな
いか……」

 後藤は呟くと、長い腕で達海
の体を抱き込んだ。

「後藤?」
「ん……?」
「……なんでもない。おやすみ」
「うん……」

 ぎゅっと抱き締められて、達
海は後藤の胸元に頬をすり寄せ
る。
 後藤の体温が気持ちいい。

「好きだよ、後藤」

 唇の中で呟いて、達海は瞼を
閉じた。
 すでに後藤の呼吸は眠に落ち
た後の規則正しいものになって
いて、達海はその呼吸音を聴き
ながらもう一度眠りに落ちた。





「……で、なんでまた一緒に寝
てんだ、あんたらは」
「ふあっ……おはよ、村越」

 そのまま夜が明けて、明けす
ぎた。
 すでに部屋の外には選手やス
タッフの気配があって、それで
も後藤は眠っていた。
 達海は寝ぼけたまま起きて、
入ってきた村越の不機嫌な顔と
対峙している。

「この間散々ヤったんじゃねぇ
のか!!」
「んー……だってぇ……」

 モニュモニュと口を動かしな
がら、達海は目元を擦った。

「後藤がムカついたから……」

 ほあぁ、とあくびをひとつ。
 しかし、そんな達海の仕草を
見て一瞬相好を崩しかけた村越
だったが、慌てて厳しい顔を作
り直した。

「ムカついてんのになんでそう
なってんだ」
「んぅ、なんでだろ?」

 首を傾げる達海は、もちろん
わざとだ。
 後藤の弱いところを、村越に
見せてやる必要はない。
 逆も然りである。
 村越は眉を跳ね上げたが、そ
れ故に村越もそこは強く突っ込
みを入れなかった。
 その辺りに、恋人ふたりを思
いやる気持ちがあると知ってい
るのだろう。
 そのことに笑みを浮かべて、
有里に言われて起に来たらしい
村越を見つめる。




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