Short Story

□30分の奇跡
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「お……っと?」

 達海はぱちりと瞳を瞬かせて、
見知らぬ部屋で目を覚ましたこ
とに驚いていた。
 すごく狭い部屋は、ベッドと、
小さなテレビ、散乱した無数の
DVD、幾つかのロッカー、そ
して、陽光が差し込む窓だけが
ある。

「見たことあるよーな、ないよ
ーな……」

 ポリポリと頬を掻いていると、
唐突にドアが開けられた。

「起きてよ達海さんもー毎日毎
日……って、え?」

 バーン! と開けたのは達海
より年上とおぼしき女性で、パ
ンツスーツに身を固めた姿はな
んとなく見覚えがあるようなな
いような……?
 なぜか相手の女性も同じ感覚
を味わったのか、二人揃って鏡
のように同じ角度で首を傾げた。

「「誰?」」

 ここにいるはずのない女……
いや、ここにいるはずのない男。
 達海はベッドから降りてンー
と伸びをした。

「えっ、えぇっ?」
「ねー、オネーサン。いまって
何年?」
「え、二千……」

 問われて反射で答えた女性に、
達海はウハ、と声を漏らした。

「うわー、十五年も後!」
「えぇぇっ!?」

 屈託なく年数を受け入れた達
海は、シャツとハーフパンツ姿
のまま部屋の外に出てみる。

「あれ、クラブハウスじゃん、
ここ?」

 十五年後の俺ってクラブハウ
スに住んでんのか、と思うとか
なり面白くて、達海は通い慣れ
たロッカールームに向かった。
 ドアを開けると、いつもとさ
して変わらない風景が広がって
いる。
 かかっている時計を見ると、
すでに練習が始まっている時間
だ。

「どんな選手いるかなー。後藤
とか、もしかしてまだ現役?」

 当然自分は現役のつもりであ
る達海は、なんのこだわりもな
く練習場に脚を向けた。

「……いっ!?」

 最初に達海に気づいたのは、
身長の低い顎ヒゲを生やした奴
だ。

「へー、ね、あんたのポジショ
ンどこ?」
「え、えぇっ……えぇぇっ!?」

 声をかけた達海に心底驚いて
いるらしい顎ヒゲが、助けを求
めるように振り返ってチームメ
イトを見る。

「た、た……たつ、達海さっ、」

 うわ、ドモりまくりじゃん、
と笑う達海に、選手やコーチが
気づいた。

「どうしたセラー! 早くゲー
ムに戻れ!」

 展開の止まっているゲームを
再開させろと怒鳴る、丸っこい
姿。

「あーっ、松ちゃんでしょっ!
わー、十五年経ってもコーチや
ってんだー!」

 年を取りはしたが確実にわか
る松原という存在を確認して、
達海は足早に松原へと近づいて
パンパンとその肩を叩く。
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