Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【30】
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 達海はベッドに体育座りをし
て、壁の方を向いたまま唇を尖
らせている。
 部屋の中にいるのはそんな達
海としかめつらしい顔をした村
越、なんとか理性を留めようと
している後藤、そして、ニヤニ
ヤしつつウエットティッシュで
手を拭っている笠野だ。
 そして、一番悪いのも笠野で
ある。
 イングランド時代の知人と話
をし終えた後、どういうわけか
いつの間にか笠野が達海の下着
の中に手を突っ込んでいて、嫌
だと繰り返したのに結局イカさ
れた。
 無理矢理だ。
 怒りと恥ずかしさと恋人以外
の手でイカされた情けなさから
むくれる達海を庇うように立ち
はだかっている村越は、先日達
海が椿に押し倒された折、酷く
怯えたと知っているだけに、余
計に笠野に対する視線が厳しい。

「ちょーっと触っただけだろう
が。お前らが普段こいつにして
ることに比べればかわいいもん
だぞ?」

 まるで悪びれない笠野の物言
いに後藤の口許が引き攣る。

「そういう問題じゃないでしょ
う!」
「そういう問題だって。まぁ、
まさかお前だけじゃなく村越ま
で達海と寝てるたー思わなかっ
たけどな」
「体だけみてぇな言い方しない
でもらえないスか!」

 村越が噛み付くと、笠野がう
るさそうな顔をしながら達海を
見る。

「体だけじゃねーのか?」
「違いますよ!決まってるでし
ょう! なに考えてるんスか、
笠野さん!」

 反論は後藤から出た。
 笠野はそのことに驚いたらし
く、目を丸くしている。

「ぁあ? なんだ、じゃあお前
が体だけなのか」
「馬鹿言わないでくださいっ!」

 笠野はますます「?」を深め
た顔をして、右手人差し指を後
藤と村越の間で行き来させ、さ
っぱりわからん、という顔で達
海に説明を求めてきたが、口を
利く気のない達海は相変わらず
むくれ顔のまま答えてやらない。
「なんだなんだ? 俺はてっき
り、本命、愛人なんだと思った
んだが、両方愛人か?」
 本命で後藤を指し、愛人で村
越を指した笠野に、後藤と村越
の両者が怒鳴った。

「「両方本命スよ!」」

 後藤は、永田会長と話すとき
にはきちんとした丁寧語なのだ
が、笠野に対しては選手時代か
らの言葉遣いのままなのが、こ
んなときだというのになんとも
なしに微笑ましい。
 達海はちらりと村越の背中の
向こうにいる後藤に視線を投げ
た。
 つん、と村越の裾を引くと、
わずかな動作にも関わらず、大
きな体で振り返って笠野の目も
はばからず柔らかい抱き締めて
くれる。

「おいおい、甘やかしすぎじゃ
ねーのか? そいつはそれでい
て三五だぞ?」

 笠野の呆れ声にビームでも出
そうな目を向ける村越と、沈痛
な面持ちで眉間を揉みほぐす後
藤。
 達海は村越の腕の中から後藤
に手を伸ばし、後藤はその手を
しっかりと握ってくれる。
 笠野はますます変な顔で三人
を眺めているが、そんなことは
気にしない。
 愛撫するように絡められた指
を確かめると、ようやく少し落
ち着いた。

「……笠さんの変態」
「なんだぁ? 男ふたり相手に
してるお前に言われたくねぇな」

 ニヤニヤしながらの返しには
取り合わないことにして、達海
は村越の胸板に額を擦りつけた。
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