Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【27】
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 キャンプ終了時のバスの中。
 なぜか達海の姿が見当たらな
い。
 松原にそれとなく確認すると、
後藤の車に乗っているというで
はないか。
 村越はいつもと違う達海の行
動を訝しく思ったが、同時に椿
が死にそうな顔で俯いているの
を見て、なんとなく胸中がざわ
つくのを感じた。
 夕べ丹波と、椿は要警戒だと
話したばかりである。
 クラブハウスについて解散と
なった後、村越は椿に声を掛け
た。

「椿」
「……あっ、こ、村越さん!」
「お前、ずいぶん顔色悪ぃが、
なんかあったのか」

 ビクッと震えた椿を近所のメ
シ屋に誘うと、椿は思い詰めた
様子でついてきた。
 真面目なのは椿の長所だが、
同時にその真面目さで思い詰め
るとなにをしでかすかわからな
いから不安である。
 いや、きっとすでにやらかし
た後だとは思うのだが。
 メシ屋について定食を頼み、
膳が来るまで椿は無言で、合わ
せて村越も何も言わなかった。
 椿のペースで、焦らずに話さ
せてやらなければ、また椿語を
繰り出してくるに違いない。
 そう思って待っていた村越に、
椿は突然頭を下げた。

「……村越さん、スイマセン!」
「なっ……なんだお前、突然な
に謝ってんだ」

 その予想外の入りに慌てる村
越に、椿は涙すら浮かべそうな
表情で切り出す。

「お、俺、夕べ監督に……ひ、
酷いことを……」

 村越の肩がわずかに震えたの
は、椿がなにを言い出すのかと
いう緊張と達海への心配からだ。
 途切れ途切れに話し出した椿
は始終俯いていて、正直に言え
ば一発殴り飛ばしたいしそうし
てもいい立場だと思う。
 だが、バスを避けて後藤の車
に乗った達海がなにを思ってそ
うしたのか……推測すると不用
意に殴れもせずに、重い沈黙が
下りてもしばらくの間、村越は
なにも言わなかった。
 腕組みをして、うなだれる椿
の頭をじっと見たままで数分。
 椿は無言の息苦しさ耐え兼ね
て数回頭を上げようとしたが、
結局村越の顔を見ることはでき
ないようだった。

「……忘れろ」
「え、」
「少なくとも、忘れたフリをし
ろよ。達海さんには、これ以上
謝るな。絶対だ」

 村越の予想外の言葉に、椿の
顔が上がる。

「で、でも……!」
「達海さんがそうしろって言っ
たんだろ。それで後藤さんがお
前を呼び出すわけでもねぇって
ことは、あの人はお前を守る方
を選んだんだ。正直、俺はお前
のことを、いますぐぶん殴りて
ぇ。だけど、お前の気はそれで
晴れるかも知れねぇが、達海さ
んの気持ちが軽くなるわけじゃ
ねぇみてぇだからな」

 言い切ると、椿は傷ついたよ
うな表情を浮かべる。
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