ナギ先輩

□ナギ先輩
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「だってY大に決めたのはナギ先輩がいるから…」

…ってこれってナギ先輩の事好きって告白してるのと同じじゃない!

そう気付いた途端に顔が赤くなってゆくのがわかる

ナギ先輩の顔まともに見れない…でも…

そっと顔を上げて先輩の顔を見る

先輩はちょっと驚いた顔をしてそれから急に真剣な顔で真っ直ぐ私を見つめている

「…なつ」

…先輩の声が僅かに上擦る

先輩の手が私の腕に伸びる

…気が付いたらナギ先輩の腕のなかに抱きしめられていた

「!せ…先輩?!」

「……

ばか…あんまし可愛い事言うんじゃねー…」

「…っだって、先輩がなんか遠くに行っちゃうような…」

「…遠くに行くのはお前だろ?」

「だから、私はY大には行きません!」

「………」

ナギ先輩は無言で暫く私を抱きしめていたが

「…ちゃんと考えろよ」とポツリと言うと身体を離した

先輩は目線を合わすように屈むと私の頭をクシャッて撫でる

「なつ…俺はお前が好きだ

多分お前が入部届けをバレー部と間違えて卓球部に持ってきた時からな」

ナギ先輩はそう言うとニカッと笑った

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突然の先輩の告白に、私は嬉しさと恥ずかしさで顔から火がでそうだった。


=========

そう…入学したての頃、締め切り間近になってバレー部に決めた私。

職員室へ入部希望を届けに行くと

『直接部長に持っていって。三年のナギにな』

緊張しながら三年生の教室をキョロキョロしながら歩く。


「あの…三年のナギさんって…」

「…あ?俺だけど」

「これ、入部希望です。宜しくお願いします」

「……ああ、宜しくな……ってうち卓球部だけど?…」

「…ええっ?」
(…どうしよう、違う人に渡しちゃった)

そんな私の様子を見て、その人はいたずらっ子のようにふっと笑った
「…でも今年はなかなか部員が集まんなかったから助かった…。んじゃ明日っから部活に来いよ。…待ってる」

そう言って頭をクシャクシャと撫でた。
先輩にすっかり心を奪われた私はただ「…はい」としか言えなかった。


後になって先生の言って人が隣のクラスの凪さんだって分かったんだけど。


入学早々の大失敗は、私に素敵な出会いをもたらしてくれたのだ。

入部してからはナギ先輩と二人きりになりたくて、何度も忘れ物をしたふりをして部室に戻った。
先輩に声をかけたくても勇気が出ず、結局「お疲れ様でした」「お先に失礼します」と言うのが精一杯だった。


…完全に私の片思いだと思っていた。


=========

「…っおい、聞いてんのか?俺、かなり真剣に告白ってんだけど」

「さっきから真っ赤になったり、泣きそうになったり、にやけたり…本当に見てて飽きねえな」

「…ううっ、恥ずかしいです」
恥ずかしさからうつ向いてしまう


「…なつ」
不意に名前を呼ばれ顔をあげる。

ちょっと怒ったようなでも真剣な先輩の表情
「…なつ、俺と付き合って欲しい」

私は先輩を真っ直ぐ見つめて、ずっと言いたかった言葉を紡ぐ
「私も…ナギ先輩が好きです」
「こんな私でいいんですか」

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「こんな私でもいいんですか」

喉から熱いものが込み上げてきたと思うと同時に私の瞳からは涙がとめどもなく溢れてくる

「…泣き虫」

ナギ先輩は優しく微笑むと

「…そんなお前が好きだ」

指先でスッと涙を拭ってくれた

「ぶ…ふぇ…ナギ先輩」

本格的に泣き出しそうになった私に先輩が白いハンカチを差し出した

「ぷ…なつ…お前鼻水たれてんぞ」

「ええ!?」

慌ててハンカチを受け取ると

チーンと思い切り鼻をかんだ

「あっ…!」
(わっ!思わず…ハンカチ鼻水でぬたぬたにしちゃって恥ずかしいよ!)

「………」

ナギ先輩はそんな私をジッと見つめている

(ナギ先輩…呆れちゃった!?)

青ざめる私にナギ先輩は突然お腹を抱えて笑いだした

「はっはっはっ!ひ〜…腹痛てぇ〜!…やっぱ、なつ、お前面白れーな!」

(きゃあ〜!はっ恥ずかしい…!)

「す…すいません

ハンカチ洗ってお返ししますので!」

「ぷ…気にすんな、いつでもいい」

「…ほら、行くぞ」

ナギ先輩はまた自転車に跨がると後ろに乗れと言うように顎で合図した

「…そこ、お前の指定席だから」

夕日に頬を赤く染めながら先輩は少し照れ臭さそうに言う

徐々に加速してゆく自転車の風に飛ばされないように茜色に染まる先輩の白いシャツをぎゅうっと握った



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ナギside


自転車の後ろになつを乗せて河川敷の道をゆっくり漕いでいく。

いつもより少しだけ重いペダルとシャツ越しに感じる体温。

(…油断すっと、顔がにやけちまう)

…やっと、今日、自分の思いを告げられた。

こいつと出会って初めて自分から人を好きになった。

おっちょこちょいで、素直で頑張り屋で、会う度に惹き付けられた。

偶然、他の部員からなつがY大に進学すると聞いて正直、焦った。
勿論、その時から俺の進路は決めていたが、なつが遠くに行ってしまうと思うと胸が苦しくなった。

…なつの将来を考えると仕方がないんだと言い聞かせてきた。

…なのにY大に決めた理由が「俺」って

思わず「くくっ…」と笑いがこぼれる

「ナギ先輩?」

後ろからなつの可愛らしい声が聞こえてくる
「何でもねぇよ」

(…ったく、人の気も知らねーで)

(あ〜…ちょっとムカついてきた)

河川敷の整備された道を外れ、わざと凸凹の道を進む。

「…え?ナギ先輩?きゃ…あぶなっ」

遠慮がちにシャツの裾を掴んでいたなつだったが、突然の激しい振動で必死に腰に手を回し背中にしがみついてきた。

「ちゃんと捕まってろっつたろ」
後ろを振り返ってニヤリと笑うと

「…もう!ナギ先輩ったら!!」となつは頬を膨らませ、ポカ、スカと背中を叩く

「…ナギ先輩じゃねぇ。ナギ…だ」

「///…ナ、ナ、ナ、……ナギ」
消え入りそうな声で俺の名を呼ぶなつ

なつが愛しくて愛しくて仕方がなかった

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「なんかまだ夢みてるみたい…」

なつはさっきからベッドのなかで寝返りうちなかなか寝付けないでいた

「私とナギ先輩…うぅん、ナギ…キャ…付き合ってるんだよね…」

放課後の自転車の二人乗り…ナギ先輩の思わぬ告白…そして抱き着いたナギ先輩の胸板や背中が思っていたよりずっと逞しかった事…

そんな事を考えると胸のドキドキが止まらず苦しい気持ちになる

ナギ先輩は私を家まで送り届けると

「明日の朝練、寝坊すんなよ」「んじゃ」と片手を上げて帰って行った

(…そうだよね、明日は朝練…早く寝なきゃ…)

私はギュッと目を閉じた

******


♪♪♪♪♪〜

携帯の着信音に目が醒める

「う…うーん…もう朝か…誰?」

寝ぼけ眼で携帯を開くとナギ先輩からのメール

「!!!」

慌ててメールを開くと

「悪りぃなつ 朝練…ていうか今日は学校に行けそうにねぇ」

(ナギ先輩、何かあったの…?)

なつは放課後ナギ先輩の家に行こうと決心したのであった

******


(ここだよね…ナギ先輩のお家…)

簡素なニ階立ての小さなビル

一階の入口の間口は広くその上には「シリウス金型工業」の少し古びた看板

ビルの剥き出しの鉄筋部分はところどころ赤く錆びている

開け放たれた間口からは機械の音やはんだづけの花火の散る光が見える

おずおずと入口に近づくとなかから男の子がニョッと顔を出した

「…キャ!」

「!…お前、誰?」

金髪ツンツンヘアに耳にピアスを開けた派手な男の子が私を値踏みするような不躾な目線でジロジロ見る

「あ…あの…その…ナ…ナギ先輩に…」

「はあ?ナギ兄ぃ?

お前ナギ兄のなに?」

「え…なにって…その」

「おい!ハヤテ!」

部屋の奥から低くよく通る声がした

「オメーなに油うってんだ」

今度はかなり年上の男の人が顔を出した

「リュウガさん…
いや、ちげーますよ

この女がナギ兄に…」

「ほう?ナギに…?」

男の人は顎髭をひとしゃくりするとジ…と私を見た

「い…いえ…その」

リュウガさんと呼ばれた人はオドオドする私にニヤリと笑いかけると

「ナギは今納品に行ってる

あと15分もしねーで戻ってくんだろ」

外階段を指差すと

「あの階段を上がって突き当たりがナギの部屋だ

待っときな」

「!え!いえ!ここで待ちます!」

男の人は金髪の男の子を親指でクイッと指差すと

「ハヤテのヤロウがお姉ちゃんみたいに可愛いコが近くにいると気になって仕事に集中出来ねーらしい」

それを聞いた男の子は顔を真っ赤にして

「!だ…だれが!こんなチンチクリン!」

「…あ〜…うるせぇ…

な?頼む」

男の人は困ったように微笑むと階段を行けよというふうに指差した

私はドキドキしながらナギ先輩の部屋へと向かった


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ナギ先輩の部屋…初めて訪れる男の人の部屋。

緊張で階段を上がる度に心拍数も上がっていく。

(ドキドキする…)

階段を上りきり、ドアの前に立つと深呼吸を一つする。
ドアノブを回す手が震える。
『…ガチャ』
「…お邪魔します」

(…いいのかな、何か悪いことしてるみたい)

ナギ先輩の部屋は、想像していたよりもキレイに整頓されていて、窓には彼を思わせるようなグリーンのカーテンが風で揺れていた。

部屋を見渡すと、棚に飾られた写真立てに目が止まる。

写真にはシリウス金型工業の人達が写っていた。

中央に先輩と多分お父様。
(フフ…目元がそっくりだ…)
その隣にさっきのリュウガさん。先輩の肩にしがみついてる金髪の少年がハヤテさん、それから黒髪の優しそうな笑顔をした人、眼帯をかけて腕をくんだ端正な顔立ちの人と、あっ、端っこに茶色の髪の可愛い男の子。

(…みんな仲良さそうだな。私もこの中に入れたらな…。)
漠然とそんなことを思った。


シーンと静まり返る部屋。外からは工場の音が響いてくる。


(…先輩まだかな)
(と、取り敢えず、落ち着こう)

無造作に床に置かれたクッションを拾い、形を整えると…ポフンっとその上に座った。

(…ううっ、やっぱり落ち着けないよ)

そわそわして部屋を右往左往するうちに、いつの間にかクッションを抱き締めていた。

(…このクッション、先輩の匂いがする)

昨日、先輩の腕に抱き締められた時に感じた先輩の匂い。

爽やかな石鹸とどこか男っぽさを感じる汗の匂い。不思議と胸がキュンとするような…

(…やだ、昨日のこと思い出しちゃった)

一人思い出してクッションをぎゅうっと抱き締める。


その時、『タンッタンッタンッ…』と階段を駆け上がる音が聞こえてくる。

「…ナ、ナギ先輩?」

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