長編2

□4.本気で通報されたいのか?
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「……お前、たまにはいい仕事すんじゃねーか。」

「……君も、なかなか侮れないね。」


甲板の入口の上と言う、人の目に付きにくい場所で何やらコソコソと話すフレンとユーリ。
お互いが持ち寄った写真を見て、その感想をのべている。

「フッ、だがまだまだ甘いな。」

と、そこに今まで黙ってそれを見ていたガイが口を開く。
3人の大の男が、座り込んで体を寄せ合いながら話す姿は、その様子だけで後ろめたいと言っているかのようだ。
けれどそんな3人を見咎める第三者はこの場にはおらず、フレンとユーリが見守る中、ガイは自信満々の顔でその一枚の写真を二人に見せつける。

「なっ!!き、君はこんな写真をどうやって…。」

「その上このアングル……くそ、やっぱり同じ部屋のやつはそれだけで有利か…。」

二人の反応を見て、さらに上機嫌なガイ。
優越感が覗える笑顔を浮かべながら、件の写真をひらひらとさせる。

「そうだな、君達のその最新の秘蔵の写真から、5種類づつとだったら交換してあげなくもないぜ。」

まさに勝者の笑みを浮かべるガイに、二人は悔しげな表情を浮かべる。
だけれどどうしてもあのガイの手の中にある写真が欲しい。
自分のコレクションは最悪また現像すればいい。いや、自分しか持っていない1枚と言うものに価値があるのだが…でもそれを放り出してでもあの写真は手に入れる価値がある。

「く……なら、僕はまずこの写真はどうだ……。」

フレンは未だ場に出していなかったとっておき写真のうちの1枚を、その場に出す。

「なっ…お前、こんな写真いつのまに……!」

驚愕するユーリに、フレンは勝ち誇ったような笑顔を浮かべた。

「下準備にものすごい時間がかかったからね。本当に奇跡の一枚さ。」

そんなフレンの写真のクオリティを見て、ユーリも負けじととっておきを出す。
自分だけが知る1枚にしておきたいと言う欲求がある反面、その写真を自慢したいと言う欲求も生まれてくる。
何ともつらい悩みだ。

「ユ、ユーリ…これは…。」

その写真の出来に、ガイもフレンも感嘆の声を漏らす。

「でも、これはさすがに犯罪じゃぁ…。」

「ギリギリってところだな…。」

そう言いつつも写真から目を離さない二人に、ユーリは自信満々にほくそ笑んだ。

「だからこそ、そそられんだろ。」








「なぁ、ガイ見なかったか?」

ルークは船内をキョロキョロと見回りながら、たまたま出会ったリッドに声をかけた。

「いや、見てねーけど?」

「そっかー、何処行ったのかな。」

ルークは頭をかきながら、困ったような素振りを見せる。

「なら一緒に探してやるよ。」

特に今日はこれといった予定も無い。ずっと食堂にこもっているのも魅力的だが、それは後でファラに小言を言われる結果にもなりそうだと思ったので、リッドはルークに協力する事にした。
何より、この少年が困っていると、どうにも力を貸したくなってしまうのだ。

「まじで!ありがとな、リッド!」

そう言って輝く笑顔を浮かべるルークを見て、リッドは苦笑する。
本当に、この少年は自分の保護欲をくすぐるのが上手いと思った。
まぁ、無自覚だろうけれど。

「じゃぁ早速船内を歩いてみるか。」

「ああ、そうしようぜ!」








ルークとリッドが、そんなやり取りをしている頃、甲板の入り口の上のスペースでは、未だに交渉が行われていた。

「この1枚を差し出すんだ…せめて5枚ではなく、これと…そうだな…この写真、2枚で手を打ってはくれないだろうか…。」

「!!ど…、どうやってこの写真を…!!」

ガイとユーリが驚愕する仲、フレンはもう一つの写真を二人の前に見せ付ける。

「だ、これお前……!」

「あぁ…ちょっとね…ちょっと……、この間ルークがエントランスに居るときに、お願いして撮らせてもらったんだ。」

「なっ…!!ちょ、直接お願いしたってのかよ…!」

ユーリは顔をこわばらせながら、その問題の1枚に手を伸ばした。
けれど、それをフレンがパシリと叩き落とす。

「やめてくれないか、いくら現像した写真と言っても、指紋がつくじゃないか。」

まるでゴミでも見るような眼差しで自分を見てくるフレンに、ユーリは顔を引きつらせながら笑う。
そしてユーリもフレンと同じく、この2枚でさっきの写真と交換してくれ、と二人の前にもう1枚の写真を差し出した。
フレンには、より見せ付けるように近づけながら。

「ユ、ユーリ……!!」

目を見開いて驚くと、すぐにフレンは顔を真っ赤にさせた。
そして目を閉じてから気持ちを落ち着かせるように胸に手を置いてゆっくりと深呼吸をする。

「……解った、いいだろう。フレンもユーリも、その2枚と交換だ。」

同じように目を剥いて驚いた顔をしていた外も、目を伏せながら咳払いを一つして、そう二人に伝えた。
そして依存は無いだろうなと確かめるように、お互いの顔をじっと見つめあうと、3人はゆっくりと写真をそれぞれの目の前に差し出す。


と、そのとき。

自身の目の前に置かれた文字通りのお宝が、ふわりと浮き上がった。
それに気づいた3人は、とっさに写真を押さえつけようとしたが、時は既に遅く、写真達が舞い上がる。

「あぁ!!」

声を上げて急いで写真を追いかけるものの、飛び立ったルーク達は、甲板の入り口から船の中へと舞い降りていく。

「俺の天使があぁぁぁぁ!!!」

ガイは大声を上げ、もの凄い勢いで船内へと入っていく。
残りの二人も、同じように必死の形相でその後に続いた。



「あぁ、よかった。全部そろってる!」

「油断してたぜ…。つい写真に目を奪われて注意を怠っちまった…。」

「そうだね、それにこんな素敵なものを他の人達に見られなくてよかった。こんなに素敵なルークを見れるのは僕達だけで十分だからね。」

「まったくだ。」

「へぇ、その写真、お前らのだったんだ。」

3人が舞い落ちていった写真を拾い集め、ほっと胸をなでおろしているのもつかの間。
自分達以外の第三者の声に、3人の顔はいっせいに青ざめた。
盲目に写真ばかりを見ていた所為で、気づく事が出来なかった自分を罵ってやりたい。


「ル、ルーク……。」


ゆっくりとその声の主に顔を向ければ、最大級の笑顔で微笑まれた。

「なぁリッド、今の写真どう言うことだと思う?」

「どうって…、ルークの写真だったな。それもきわどいアングルばっかの。」

リッドの言葉に余計な事を言うなと言ってやりたい盗撮者達だったが、今何か言葉を発しても、それがいい方向に行くはずも無く、3人はただ目線を逸らして黙り込んだ。

「おいお前ら、それよこせ。」

可愛らしく微笑みながら、同じように可愛らしい声で恐喝してくる天使。
けれどいくらルークの頼みでもそれは素直には聞けないと、3人は写真を体の後ろに隠した。
今更隠すのは遅いとは解っていても、そうせずには居られない。

「いいから出せ、お前ら、本気で通報されたいのか?」

天使の顔が、今だけは悪魔に見えて仕方が無かった。






「今度やったらただじゃおかねーからな。」

嫌悪感を丸出しにして言うルークの手から、さっきまで自分達の手の中にあったはずのお宝写真達が無残にも引き裂かれて散っていく。
その光景に泣き出しそうになる男達に、まるで汚物でも見るような目を向けるルーク。
そんなルークの貴重な表情に、条件反射でカメラを構えたガイ。
もちろん問答無用で殴られた。

「ゴフッ!!」

鈍いうめき声をもらしながら、ガイはその場に沈む。
まったくこの愛しい子は、いいパンチを持っている…。

「ただじゃおかねーって言っただろ。」

ルークは楽しそうな笑顔でそう言うと、ガイをもう一度蹴り飛ばして、踵を返しこの場から離れていく。

「……お前ら、もうルークに近づくなよな。」

そんな取り残された3人に、さらに追い討ちをかけるように言うリッド。
言い返す言葉も無い男達は、ただその場に崩れ落ちた。


今自分達に出来るのは、細かく破り捨てられた愛しい子のかけら達を、必死に集める事だけだった。




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