ヤンデレ
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※ヤンデレストーカーユーリ
※短編として読めますが、たぶん続きます。
「ルーク!」
「ん?……あ!ユーリ!!」
自分の名前を呼ばれて、暫くあたりを見回した後、甲板の入口にその人を見つけて、ルークは笑顔で駆け寄っていった。
コロコロと表情を変えて駆け回り、その可愛らしい後ろ髪をピョコピョコと揺らす様は、何度見ても愛しくて、ユーリはフッと口元を綻ばせた。
「なんだ?どうかしたのか?」
甲板の掃除中だったルークは、デッキブラシを持ちながらそう言ってユーリに首を傾げて訪ねる。
某国の王子様がデッキブラシを持っている光景なんて、この船でしか拝むことは出来ないだろう。
同じく甲板掃除だったのか、リッドもどうかしたのかと伺うように二人を見ていた。
「真面目に掃除してるみてぇだな。」
「なんだよその言い方。」
ユーリのおかしそうに言う態度に、ルークはむくれて言い返す。からかいにきたんなら、掃除しに戻るぞ!
と取って返そうとするルーク。
「ちょっと待てって。」
慌ててユーリはその手首を掴んでルークを引き止める。
「そう急ぐなよな。」
ユーリは言いながら、手にしていた袋を漁ると、そこから綺麗な朱色と黒色の糸で編まれたブレスレットを取り出した。
それを外れることがないように、しっかりとルークの手首に結び付ける。
「…これ、なんだユーリ?」
取り付けられたブレスレットを目の高さまで持っていき、マジマジと見つめるルークに、ユーリは余裕の笑みを浮かべた。
「縁結びのご利益あるらしいぜ。」
「え?」
一瞬固まったのち、ルークはすぐに顔を真っ赤に染めた。
「え、…え?…え…」
「縁結び。」
疑問か単語か。
思うように言葉を口にできないルークに変わって、ユーリはもう一度はっきりとそう言った。
「俺とお揃いな。」
ルークの前にユーリの手が差し出される。
そこには全くお揃いのブレスレットがしっかりとかた結びされていた。
「………ユーリって……そう言うの信じるんだな…。」
照れくさそうに視線をそらして口をとがらせながら言うルーク。
ぶつくさ言いながらも、とても嬉しそうなルークの様子に、ユーリも笑って答える。
「ま、偶にはな。それに…お揃いってのも、恋人同士らしくていいだろ。」
ハッキリとそう言うユーリに、ルークは恥じらいながらも、はにかんだ笑顔を浮かべて微笑んだ。
「…ありがとな、ユーリ!」
「どういたしまして。」
そうしてルークは嬉しそうに、ブレスレットに軽くキスをすると、すぐさま甲板掃除へと戻っていった。
逃げるように行ってしまった恋人は、リッドに顔が赤いぞ、なんてからかわれて、さらに真っ赤になっている。
まったく、本当に、可愛らしい。
ユーリはルークのそんな様子を堪能すると、再び船内へと戻っていった。
そうして、そのお揃いのブレスレットが結ばれた手で、袋の中からさらに何かを取り出した。
見た目はただのイヤリング。
けれどそれは片耳にだけ取り付ける、コードレスの小さなイヤホンらしく、ユーリは自分の耳に静かにそれを取り付ける。
その後で髪を整えれば、耳に何かをつけているなんてわからなくなった。
ユーリはスッと耳脇の髪の毛をかき上げるようにして、たった今取り付けたばかりのイヤリングに触れる。
『またお熱いことで。』
『リッド!!べ、別にそんなんじゃねーしっ。』
『はいはい。』
『ちょ、ちゃんと聞けよな!』
「感度は良好。多少ノイズはあるが、まぁよく聞こえるな。」
ザザザ―――
と言うノイズ音がイヤホンから流れた後、チューニングがあったのか、ノイズ音は小さくなり、イヤリングからはルークの声が聞こえてきた。
そう、ルークがたった今喋っている声が。
今はリッドにからかわれているところなのだろう。
声に表情があるルークは、聞いているだけで簡単にどんな顔やそぶりをしているのか想像ができた。
「後はどの範囲まで聞き取れるかだな。」
ユーリは甲板にほど近いその場所から、今度は一番遠い船尾まで移動する。
「ココでも十分聞こえるな。」
と言うことは、船内に居れば確実に聞き取ることができると言うことだ。
「これで、もう大丈夫だな。」
ユーリは至極楽しそうに微笑むと、そのイヤリングを、大切そうに撫でる。
「これでもう、お前の言葉を、声を、一言一句聞き逃すこともなくなるな、ルーク。」
揺れるイヤリングからは、リッドと笑いあうルークの声が、楽しそうに響いていた。