長編小説
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5.こんなの、計画外だ!
ユーリは、その扉をじっと見つめた。
この扉の向こうに、自分の最愛の恋人がいる。
中からはペンを走らせる音がするから、今はきっと仕事中か日記を書いているかだろう。
が、そんなこと自分には一切関係ない、とユーリは思った。
今日一日ルークに好き勝手に振り回されたのだ。自分にだってルークを振り回す権利はある。
「おい、ルーク、入るぞ。」
ユーリはそれだけ言うと、中で慌てふためく声をあげるルークを気にもせずに、扉を開いて部屋に入った。
「ユ、ユーリ……。」
中に入ってきたユーリの思った以上に冷たい眼差しと機嫌の悪さを感じ取って、ルークは冷や汗が流れるのを感じた。
もしかして、今日ユーリにやった計画がばれてしまったのかもしれない…。そう思うと自然と目線が下がっていく。
「お前、今日は随分と俺を楽しませてくれたなぁ。」
絶対に、気付いている…。
ユーリのその一言で、自分の計画がすべてばれていたことを感じ取ったルークはより視線を逸らした。
こちらを見てくるユーリの視線が、ここから逃げ出したくなるほどに痛い。
「しかも、手伝ってもらったやつへのお礼はお前自身ってか?」
一歩一歩、ユーリが近づいてくる。
それに伴って、ルークも一歩ずつ後ろへと下がっていった。
「お、おれ自身なんて言ってねーよ!な、なんでも言うこと1つ聞くって言っただけで…。俺、できることあんまねーけど…。」
もごつきながら言うルークに、ユーリは苛立ちを隠すことなくルークへとぶつける。
そんな約束をして、いったい自分の身に何かあったらどうするつもりなのか。
何人の人間がお前を狙ってるのか知っているのか?!
そう問いかけてやりたくて仕方がない。
ユーリはさっさとルークとの距離を縮めると両腕を、バンッ、と壁と自分の間にルークを閉じ込めるように叩きつけた。
大きな音にルークはビクリと肩を震わせる。
そうして怯えるように、ユーリを見上げた。
その姿に、こんなにも心が震わせられる自分の気持ちが、どうして疑われなければいけないのか。
最初のうちは可愛かったが、報酬がルーク自身になってしまっては黙ってみているわけにはいかない。
「ルーク、お前には一回しっかりと教え込まねーといけないみてーだな。」
にやり、と不敵に笑うユーリ。
逃げ出すこともできないルークは、泣き笑いの様な表情を浮かべている。
「ほら、さっさと足開けお坊ちゃま。」
有無を言わせないその言葉に、ルークは嫌だと悲鳴を上げた。
自分の自由を奪うユーリの両腕が、恐怖でしょうがない。
「今日のお礼に、声が出なくなるまで遊んでやっからよ。」
さも楽しそうに言うユーリに、ルークは自分の瞳が潤んでいるのを感じた。
そして心の中でひたすら叫んだ。
こんなの、計画外だ!!
「で、反省したか。」
散々ルークと遊びつくした男は、ベッドの中で肩肘を着きながら、恋人に淡々とそう告げる。
尋ねられたルークは、上手く声すら出せないようで、ユーリの隣でうつ伏せに横になっていただるい体を何とか動かし、顔だけをユーリに向けると、ゆっくりと二回頷いた。
「ったく……なんで勝手に不安になってんだよ、お前は…。」
ため息を吐きながら言うユーリに、さんざん反省させられたルークではあったが、ムッとした表情を浮かべてユーリに抗議した。
「……だってさ……しょうがねーだろ。……ユーリ、カッコいいし、モテるし…。なんで俺の事好きなのかわかんねーんだもん…。」
昨日だって…とルークの恨みつらみがその口から止めどなく紡がれていく。
ユーリは予想外の反論にあっけにとられて頬をかいた。
これは、予想以上に不安にさせていたらしい。
「……それは、不安にさせて悪かった。」
「……別に…もういいけどさ…。」
すんなりと謝罪してきたユーリの言葉に、ルークは頬を染めて膨らませながら答えた。
その表情もなんとも愛らしい。
「けどな、俺はお前以外好きになんねーから、もうこんなことすんなよ?」
「………こんな、こと?」
意味がよくわかっていないお坊ちゃまに、ユーリはため息を吐くともう一度解りやすく言ってやる。
「だから、俺以外のやつになんでも言うこと聞くとか、そう言うことを「あぁ、そっか!!」
そうそう、ようやく分かったか。
なんてユーリが安心していたのも束の間。
「忘れてた、ありがとな、ユーリ!協力してくれたお礼に、みんなになんでもするって言ってこなくちゃ!」
良い笑顔で言うルークに、ユーリの顔が引きつった。
「みんな、成功しなかったからお礼はいらないって言ってたけど、そんなの悪いしな。」
(おいおいおい!
このお坊ちゃま何にも分かってないのかよ!)
そうと決まれば、さっさと言いに行かなくちゃと、ルークは疲れた体を無理やり起こして服を着始める。
「おい、ルーク……。」
「ん?なんだよユーリ……って、え?!」
自分の呼びかけに振り向いたルークを、ユーリは組み敷いた。
「どうやら、まったく分かってねーみたいだな。」
「は?ちょと、離せよユーリ…!」
両腕を押さえつけても逃げ出そうとするルークに、ユーリは無理やり口づける。
「…っあ……。」
熱烈なキスに真っ赤になるルークを上から眺めながら、ユーリは良い笑顔をルークに向けた。
「お前、もう一回お仕置きな。」
「は……?」
事情が分かっていないルークに、無情にもユーリの手が伸びていく。
(ここまでやって分かんねーなんて、そんなのこっちが計画外だっつの。)
今着たばかりのルークのインナーを脱がしながら、ユーリは色を含んだ声で囁いた。
「さっきので分かんねーようなら、今度はお前の意識がなくなるまで分からせてやるよ。」
「?!!」
ルークが、自分がどんなに愛されているかを理解するには、まだまだたくさんの時間がかかりそうだった。