ヤンデレ
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「おいルーク。一緒に仕事行こうぜ。」
ルークの部屋の扉を開けてそう言ったユーリは、部屋の中の様子を見て動きが止まった。
部屋の中に、金髪の神子様がみえたからだ。
「あ…、わりぃユーリ。今コレットと出かける約束しちまったんだ。」
顔の前で手を合わして謝るルーク。
「そうか。」
それに対して、ユーリは笑顔を作って軽くかえした。
ルークがその返答にほっとしているのもつかの間、ずかずかと歩くと、ユーリはルークの手首をギュッとつかんだ。
「…っ!」
痛みに顔をしかめるルーク。
「わりぃなコレット、こいつ俺と約束してんの忘れたらしい。」
ユーリはコレットに笑顔を向けながらそう言った。
「え……。」
最初、今誘いに来たような言い方をしていたはずのユーリからの真逆の言葉に、コレットは戸惑った。
ユーリとルークは仲がいい。なら、きっと一緒に居たいんだろう。
「それなら一緒に…。」
そこまで言いかけて、コレットの言葉は止まった。
ユーリがルークの手首を握る力がどんどんと強くなっていっているのだ。
たぶん、今自分が言おうとしている言葉は“正解”では無い、と言うことなのだろう。
「あ、私、ロイドとジーニアスと一緒に行く約束してたんだった…。」
絞り出すようにでた言葉に、ユーリが手に込める力が緩むのが解った。
これが“当たり”のようだ。
「ご、ごめんねルーク。私ドジだから…。じゃぁね。」
そう言ってコレットは小走りで部屋を出て行った。
コレットが見えなくなってから、ようやくルークの手は解放された。
つかまれていた部分が離されてからもヒリヒリと痛む。
目を向ければ、赤く、くっきりとユーリの手の跡が残っていた。
「………コレット、おびえてたじゃんか。」
ぽつりと言えば、ユーリが勢いよく振り返って俺をにらみつけた。
(あ、やばい…。)
そう思った時には、ルークはユーリによって思い切り蹴飛ばされていた。
「は?お前何言ってんの?」
そして床に倒れたルークの上に、ユーリが馬乗りになって覆いかぶさってくる。
その目と口は、笑っていた。
「お前に話しかけてること自体許せねーのに、手ぇ出さなかったんだぞ?死ぬほど優しいだろ。」
顔を近づけて、体の芯に響くような低い声で語りかけるユーリ。
言いながらルークの髪を人房とって、手のひらで弄ぶ。
「………。」
ルークは何も答えず視線を横に向けた。
一度こうやって線の切れたユーリには、何を言ってもあまり通じない。
「それともお前は俺よりあのお嬢様の方が良いって言うのか?」
自分で言いながら腹が立ってきたのか、ユーリはいじっていたルークの髪を強く引いた。
「っ…。」
痛みに顔をしかめながら、ルークはその問いにゆっくりと答える。
「ユーリが…、ユーリが一番だよ…。」
うっすらと涙を浮かべながら答えるルーク。
その声音は必死に訴えかけるようだった。
「………。」
その声に、狂気に笑っていたユーリの顔が落ち着いていくのが解る。
「………ルーク……。」
そのいつもの優しさの覗く瞳に戻ったユーリに、ルークは今度は微笑みながら言った。
「ユーリ、大好きだよ。」
「……あぁ、…俺もだ……。」
下にひくルークを、そのまま優しく抱きしめる。
今度はなんの痛みも与えず、ただただ壊れ物を抱くように優しく抱きしめた。