捧げ物

□「お連れ様は3人まで」
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「ふーん…、ルークは今日ロイドとスタンと一緒に採掘のクエストか…。」

ユーリはクエスト一覧を見ながら一人つぶやいた。

「あのやっかいなルーク狂のやつらは、今日受注してるクエストは無い…。……となれば、俺はこのクエストだな。」

何やら人の悪そうな笑みを浮かべると、ユーリは討伐クエストを受注した。

「?何だかユーリさん、機嫌がいいみたいですね。」

「まぁな。」

チャットの軽い疑問は、その後すぐに解決することになる。





「道具も一通り持ったし、これで準備は大丈夫だな!」

今日、ルークはロイドとスタンと一緒にクエストに行く約束をしていた。
久しぶりのクエストという事もあって、ルークのテンションはいつもより高めだ。
指差しで荷物を確認すると、立てかけていた剣を腰に挿して、待ち合わせをしていた船のエントランスへと向かった。

「お待たせ!」

エントランスに先に来ていたロイドとスタンの姿をみて、ルークは駆け寄った。二人とも、ルークにとって気兼ねなく話ができる大切な親友だ。

「あ、ルーク。」

「ん?どうかしたのか?」

元気よく駆け寄ったルークとは逆に、困ったように眉を潜めて笑う二人に、ルークは疑問符を浮かべながら問いかける。
「それがさぁ、困ったことになったんだ…。」

頭をかきながら言うスタンを横目で見ると、ルークは二人が見つめる先に目線をうつした。
そこには、ガイ、ゼロス、ティア、エステルの姿がある。

「………えっと……、俺、状況がまったく飲み込めないんだけど…。」

4人がじっと自分の方を見詰めて微笑んでいることに、何故だか冷や汗が出てきて、ルークは一歩後ずさった。
目の前に居る4人からは、笑顔なのに何故だかとてつもないプレッシャーが感じられる。

どうして自分がこんな緊張感に当てられなくてはならないのか、正直逃げ出したい。耐え切れなくなったルークは、腰に手を当ててため息を吐くロイドと、頭をかいて項垂れるスタンに、どういうことだと助けを求めた。





「へ?一緒にクエストに行きたい?」

3人でしゃがみこみ、円形になってヒソヒソと話し始まったときは何事かと思ったルークだったが、二人から事情を聞けば、何てこと無い内容だった。
今日行くクエストは、4人まで請負可能な内容だったはずだ。けれど実際行くのはルーク、ロイド、スタンの3人。それならば自分も一緒に行くと、目の前に居る4人が言ってきたらしい。

「で、あと一緒に行けんのが1人だからあんなにピリピリしてんのか…。」

理由を聞いて納得したルークは、振り返って後ろの4人をチラッと見る。
未だものすごいプレッシャーを放つ4人が、輝く笑顔でこちらを見ているのは、なんとも恐ろしくてしょうがない。

「4人とも…よっぽどこのクエストに行きたいんだな…。」

心のそこから申し訳なさそうに言うルークに、ロイドとスタンはため息をつきながら同意した。

「本当、よっぽど(ルークと)クエスト行きたいんだろうな。」

折角のルークとの約束を台無しにされた2人としては、目の前の4人は放っておいて、さっさとクエストに出かけてしまいたいところだ。

「ルーク、もちろんご主人様が使用人を置いて行ったりしないよな?。」

ルークが漸く事情を飲み込んだ辺りで、ガイがそう話しかけてきた。

「え?なんで俺に聞くんだよ。ロイドとスタンの意見も聞かないと…。」

「あ〜、(どうせ誰が来てもライバルが増えることに変わりはないし)俺はルークの意見に従うぜ。」

「俺もそれでいいよ。」

二人がそういうや否や、4人は早々と自分のアピールを始める。

「ガイ、ふざけないで。ルークが必要としているのは、前衛じゃなくて回復が可能な術者よ。」

ピリッと言い放つティアに、ゼロスも便乗する。

「そうそう、前衛なんてお呼びじゃねーの。ここは魔法剣士で回復もできちゃう俺様しかいないでしょ。」

しかし負けじとガイも反論した。

「術は確かに強力だが、回復はグミでだってできる。それに術者は防御力が低い。かえって前衛だけのほうが行動しやすいもんさ。」

けれどそんなガイにエステルが言い返す。

「それなら、私はこの船の中で一番防御力のある回復役です。皆さんのご迷惑にはならないと思いますよ。」

ニコニコとした笑顔は一見とても可愛らしいものの、他の3人と見詰め合うその間には決して入っていきたくない何かを感じさせる。

こうなればもう埒が明かないとばかりに、4人はいっせいにルークの方を向いた。
ルークにとっては恐怖でしかない。
けれどそんな怯えるルークは露知らず、4人はぐいぐいと近づきながら、ルークの判断を仰ぐ。

「やっぱり俺しか居ないだろ、ルーク。」

「いいえ、私です!」

「私を連れて行って、ルーク。」

「俺様だろ。な、ルーク。それにハニー。」

いっせいに迫られ、思わず後ずさり、眼を逸らすルーク。
ロイドもすかさずゼロスから目を逸らしていた。

「えー…っと…。」

もはや誰を選んでも恐怖だ。
早々と判断を俺に任せたロイドとスタンが羨ましくてしょうがない。

とにかく早くこの場を乗り切りたいルークは、必死に頭をフル回転させた。

(考えろ俺!4人はこのクエストに行きたい。でも俺もクエストに行きたい。)

周りの外野の声をなるべく聞こえないようにして、思考に集中するルーク。

(あれ?えーっと…よく考えれば俺、別にこのクエストじゃなくてもいいんじゃないか?)

そうして、はっといい事が思いついたと言うように、ルークは満面の笑みを4人に向けた。

「解かった!決めたぜ!!」

ルークの笑顔にその場に居た全員が一瞬朗らかな空気になるものの、その発言にすぐに4人はピリッとしたオーラに切り替わる。

「みんなそんなにこのクエストに行きたかったんだな。俺、このクエストそんなに人気だなんて知らなかったからさ。取っちゃってごめんな。」

全員がただルークと出かけたいだけなのだが、そこに気づかず笑顔で申し訳なさそうにするルークに、その場に居たメンバーの心は鷲づかみにされた。

今にも可愛いと言う言葉で溢れかえりそうな4人の心に、今度はルークから信じられない言葉が発せられた。

「だから、このクエストみんなに譲るよ。」

「?!」

4人は何が言われたかわからず、今度はその場で思考が止まってしまう。

「このクエスト4人までだからさ、お前ら4人で行けばぴったりじゃんか。」

満面の笑顔で大岡捌きをしたと言わんばかりのルーク。

「いや、そうじゃなくて…。」

「なんだ?」

誰が好き好んでこいつらとクエストに行かなくちゃいなんねーの。俺様はハニー達と一緒に出かけたいの。

そう言おうとしたぜロスの言葉は、ルークのなんだ?と可愛く首を傾げながら訊ねてきた仕草の所為でのどの奥につっかえてしまった。
最高の判断をしたと思っているこの可愛いルークに、違うなんて言うことは4人とも出来なかった。
それでもどうにかルークと出かける方法は無いかと思案をするものの、何も思い浮かばない。

「お、ちょうどいい奴ら発見。」

そのなんとも淀んだ空気の流れる場に、何も気にせず入ってきたのはユーリ・ローウェル。
サクサクと歩み寄ってきては、ルークをいとも簡単に後ろから抱きしめた。

「!!!」

それを目撃して険しい目線を向ける周囲を気にもせず、ユーリは話を続ける。

「ルーク、お前俺と一緒に討伐クエスト行かねぇか?」

「マジで?!行く!ラッキー、今からじゃもうクエスト残ってねーかと思ってたんだ。あ、ロイドとスタンも一緒で言いか?」

「ま、4人までのクエストだからな。問題ないぜ。」

「よし、じゃぁ早く行こうぜ!」

そう言ってルークは我先にと船の出口へと向かっていく。
そしてルークを横から掻っ攫ったこの憎たらしい男は、4人に振り返るとあくどい笑顔で

「ここまで俺の想像通りになるとはな。ご協力ありがとよ。」

と告げると、さっさとルークの後を追いかけて言った。


「あ、アイツ…。はめやがった…。」

「ユーリ…今日はどうしてルークの近くに居ないのかと思っていたら、こういうことだったんです?!」

自分達4人を上手く使って、パーティーの残り1人に上手く入り込んだあの悪魔のような男に、4人はただ悪態をつくことしか出来なかった。

「あの卑怯者!!」

後ろから聞こえた妬みの声に、ユーリがより一層いい笑顔を浮かべたことを、4人は知る由もない。


fin


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