‡BOOK‡

□しあわせひとつ
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「…」


「…」


広い執務室。 
上質な革のソファも真っ赤な絨毯もどれも綺麗で、 
その真っ黒なソファに極卒は座っていた。
そして更に、極卒が組んだ脚の上に、少女がいた。 
彼が先程から流すように読んでいる沢山の書類を、横から目で追っている。



「…えんぜつ…?」



「僕の仕事の1つだ。」



書類の文字を追っていた少女が、ぽつりと呟く。じっと極卒を見上げている。極卒は書類を流しながら答えた。 
ふうん…、少女は再び書類に目をやる。先程とは違う書類に変わっていて、ただでさえ意味のわからないことばかりだったものが、もっとわからなくなった。




「……」


「おもしろいか?書類は、」


ばさ、と書類を投げ捨てるように机の隅に置くと、膝の上の少女に話し掛けた。 



「……あんまり、」



くく、と喉の奥で笑う。


「当然だ、おまえには難しすぎる。」



半ば嘲笑うように少女をからかう。
少女は黙り込んでしまった。 




「まあ、わかってもらっては僕も困る。」



「?」



どういう意味?視線で少女は問い掛ける。 
極卒の手が、少女の頭に置かれた。おまえには、まだ早い。極卒が口角を上げた。 


「…いつか、わかる?」



極卒は考える素振りをしてみせる。本当なら、「一生わからないだろう」と罵ってやりたい。 
が、少女をあまり傷つけたくはなかった。 


「そのうち、な」



「…じゃあ、わかったら…極卒と一緒に、書類読む」




少女が、小さく微笑する。 
極卒もつられて、「楽しみだよ」と小さく笑った。 






end.
(嗚呼この瞬間が…)

…しあわせ
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