カントー地方


□「優しい」
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シロガネ山

おさまった吹雪の音と入れ替えに大きな羽音が響き渡る。


「あ」

ちょうど洞窟から出るのと同時に、ピジョットに乗ったグリーンと目が合った。

「よ、久しぶり」
「…来るなら来るって言ってよ」
「おまっ…言っただろ!週末行くって!」
「え、もう週末なの?」
「っはぁ…」

ストッと着地した彼は、一つため息をつき、顔を寄せて来たピジョットをわしわしと撫で始めた。

「お疲れ、ありがとなピジョット」

「……」







「グリーンてさ」

焚き火で温めたお湯を一口飲んでから顔をあげる。

「ポケモンには優しいよね」

一瞬、グリーンの手が止まり、訝しげにこちらを見つめてきた。

「…なんだよ突然…お前には優しくないみたいな言い方だな」
「だって実際そうだろ」

もう一口すする。

「お前ぇ…じゃあ食料やら薬やら持って来てやってんのはなんだって言うんだよ…」
「…それはそうだけど」

持ってきた荷物に寄りかかるようにして、グリーンは腰を下ろした。

「てか、それを言うならお前のほうだろ!ポケモン、に、は!優しいよな」

まだ何か言いたげな目線をレッドに向ける。
それに応えるように、レッドもまたグリーンを見つめ返す。
ピカチュウがレッドとグリーンを交互に見回した。

「…何だよ」

先に口を開いたのはグリーンだ。
レッドの視線を一身に浴びて痺れを切らしたのか、目も逸らした。

「反論があんなら言ってみろよ」

そう言って小さく伸びをする。
すると、しばらく寝ていないのだろうか、そのまま眠りについてもおかしくないような、虚ろな目に変わった。

「……」

レッドの視線がまだ向けられている事も気にせず、グリーンの瞼がだんだんと重くなる。
そしてそれが完全に閉じられようとした時

「…っ!?れ、レッド!?おま、なにして…!」
「なにって、グリーンの真似してるだけ」

レッドがグリーンの頭を、先程ピジョットにやったそれと同じように撫でていた。

「なんだよいきなり」
「いや、グリーンが僕に優しくして欲しいのかと思って」
「……………は?」

手を止めると、グリーンの顔を覗き込むように首を傾げた。

「あれ、違った?」
「………」

急に近づいたレッドの瞳に捉えられ、グリーンは息を飲む。

「そんな、ことあるわけ…」

そこまで言って唐突に途切れたのは、レッドが優しく微笑んだからだった。

「っえい」
「!?」

突然押し倒され、荷物の横に2人が転がる形になる。

「……」
「グリーン眠いんでしょ?寝ていいよ」
「…?」

上に乗っかっていたレッドが、ゴロンとグリーンの横に寝転がる。

「寝る間も惜しんで会いに来てくれたんだろ。グリーンが優しいのは知ってるよ」

ほとんど眠りに落ちているグリーンには聞こえていないかもしれない。
それがレッドには逆に良かった。

「ありがとう。…………大好き」






やがて2人分の寝息だけが、洞窟に響いていた。


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