short 2

□ドンドンドドドン!
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「あーいこでしょい!!」

命がけのじゃんけんとはまさにこのことだ。
このじゃんけんで私の運命が変わると言っても過言ではない…!

「くぅ…なかなかやるなー、白石ー」
「名字こそなかなかのもんやで」

通算39回目のあいこ。
私は(出ていない)汗を拭って目の前にいる白石を見る。
いや、睨む。


二年生のとき、埼玉の立海から大阪の四天宝寺に急遽転入してきた私。
イケメンに関わるとろくなことがないと、立海で経験した私はイケメンには一切近寄らなかった。
むしろ男子にさえ近寄らなかった。
そして一年経った始業式。
帰り道に白石に呼び止められた。

「名字さん、一緒に帰ってもええ?」
「…お断りしまーす」

私は嫌な顔を隠さずに応え、足早にその場を去ろうとした。
けどそれは白石によって阻まれる。
ぎゃぁぁ!!腕掴まれたぁぁ!!
私はかなり苛々しながら白石を睨む。

「あの、急いでるんですけどー」

白石はいつもの笑顔のまんま、私を見た。

「決めたわ」
「あー?」
「名字さん男テニのマネージャーやらへん?」
「お断りしまーす」

何考えてんのこいつ。
掴まれた右腕をぶんぶん振り回しても一向に解放されない。
あ、こいつ左利きなのか。
どうでもいいけど。

「私より男テニのこと考えれる人にしてくださーい。てことで放せー」
「名字さん変わった喋り方やなぁ」
「うっさーい。いてこますぞオラー」
「いてこますって意味わかっとんのか?」
「ようは殺すってことだーろぃ」
「ちゃうわ」
「あーもーどーでもいーから放せー。
私は帰るんだー」
「せやから俺も」
「あーあんなところにカブト虫ー」
「なんやて!?」

チョッープ!
白石の手の力が緩んだ瞬間腕を振り払って逃げる。
よくクラスで忍足と話してるのを嫌でも聞いてたから憶えた。
ガブリエルっつーカブト虫飼ってんだっけな。
結構走ってから後ろを確認してみる。
すると二歩ぐらい離れたところに白石の姿。

「うっわー、きもー」

そこら辺にいたアリを投げる。
白石は顔を引きつらせてよけた。

「ちょ、名字さんなんてもん投げんねん!」
「アリ」
「見ればわかるわ!」

二匹目!
白石は短く叫びながらアリを叩き落とした。
舌打ちをする。

「名字さん!俺の話聞いてや!」
「あーん?」
「それ氷帝の跡部くんや!アリィィ!」

しばらくアリVS白石の戦いが始まり、白石くんが勝った。
私ごと押さえ込むという形で。
白石に肩に抱えられてるなう。

「うっわ、へんたーいおまわりさーん」

ちなみに私の身長149cm。
チビっつた奴表でろ。

「よっしゃもうこのままでええわ」
「私が全然よくなーい」
「ほな四天宝寺戻るで」
「え、このままで?」
「おん」

言った瞬間白石が走りだす。
くそ恥ずかしい。
しかし風が気持ちいな。
気付けば意識はフェードアウト。
寝たか気絶したかわかんない。


「…う゛」

五月蝿くて目がさめた。
私は眠いんだ、寝かせろ。
もぞもぞと布団を引っ張り頭から被る。

「…」

なんか、この布団、薄いし匂いが違う。
ばさっと払いのけて起き上がる。

「……なんや、起きたんすか」

目の前に黒髪ピアスの顔。
整ってる=イケメン。
とりあえず鼻を摘んでおいた。
黒髪くんの顔がゆがむ。

「なにするんすか」

手が払いのけられて黒髪くんの顔もなくなった。
ここどこ。

「名字起きたんやな」
「ふん!」

原因と思われる白石に目潰しをする。
が、交わされて忍足に当たった。

「っぎゃぁぁあ!?」
「謙也さん大丈夫っすか」

ぴろーん、と軽快な音が鳴って黒髪くんが持ってる携帯が光る。
写メ撮った、あいつ。

「ねーちゃんワイよりちっこいんやなぁ」
「ごめんねーちっさくてー」

赤髪の子にヘッドロックをかけると赤髪の子はむしろ楽しそうにしている。
なんだこいつ可愛いじゃないか。

「ほな名字、じゃんけんや」
「あーん?」
「名字が勝ったら俺らはもう関わらん。
けど俺が勝ったらマネージャー、やってもらうで」
「勝手に決めるなミルクティー」
「ほな行くで、じゃんけいほい」

言われて思わず出した手はパー、白石もパー。
つまりはあいこ。

「40手目ばい」
「あいこで、ほい」

なんかでっかいモジャが呟いた。
けど白石は笑っただけでスルーした。
んでもってまたあいこ。
また、また、また…。

そして冒頭に戻る。


「次が40手目やな」
「あーん、一々数えてられかー」

数えてたけどね!畜生!

「ほないくで。
あーいこで、しょ!」

白石はパー。

私はグー。
膝から崩れ落ちた。

「本間に40手目や…。
才気煥発の極みは怖いっすね」

うるさい黒髪写メ撮るな。

「ほな、マネージャーやってもらうで」

にっこにっこと笑っている白石が私の頭を撫でる。
子ども扱い絶滅しろ。

「………引退するまでだからなー…」

くそ、なんでチョキ出さなかった私。
あ、涙出てきた。

「ちゅーことで、今日から名字がマネージャーやからな!
全員仲良く……しちゃあかんでー」
「苛めかー!」

白石の胸倉は掴めなかったので腰らへんのワイシャツを掴んでゆさぶる。
白石はへらへら笑ってるだけだ。

「やるんだからー!
やるからには仲良くしろよ、させろよー」
「名字先輩。
部長ほっといてドーナッツ食べへん?」
「あー食べるっ」
「財前餌付けもあかんでー」
「オサムちゃんが買ってきてたの拝借してきたっすわ」
「ドーナッツ、ドーナッツ早くー」
「うっわ、先輩かわええ」
「むぞらしかー」
「ドーナッツー。
私ポンデねー」

案外いいかもしれない、男テニ。
明日はバームクーヘンが食べたいなー。


((4/10おめでとございます!))

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