エトセトラ

□エイプリル−ヒロト−
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今日はエイプリルフール。
なので罪悪感はあるけど彼氏であるヒロトくんに嘘をついてみようと思う。
さて、何にしようか。
少し考え、あることを思いついて包帯とジャージ、最後にウィッグを取り出す。
うん、これなら。
私は部屋で一人、ほくそ笑んだ。


控えめノックの音が静かな俺の部屋に響いた。
誰だろう、と思いつつ扉を開けると、知らない男の子がいた。
前髪が長めの小さい男の子。
イナズマジャパンの宿舎にどうやって入ったんだろう。
訝しげに見ていると、男の子が口を開いた。

「…あの、ここに魔法少女、いますか?」
「少女ちゃん…?」

男の子にしては高めの声。
なぜか聞いたことがあるような。

「俺、 少女の弟の精一って言います」
「え、少女ちゃんの弟?」
「はい。
俺、応援に来るついでにあいつに服を持ってこいって言われて…」

精一君が紙袋を持ち上げる。
少女ちゃん、服足りないって言ってたかなぁ?
首を傾げていると精一君がため息をついた。
早く渡して帰りたいのかな。

「うん、わかった。
少女ちゃんの部屋に案内するね」

俺がそう言って微笑むと、精一君は頭を下げた。


「ここだよ」

ヒロトくんが扉をノックした。

なんで。

「…あれ、少女ちゃんいないのかな?」

ヒロトくんが扉の向こうにむかって私の名前を数回呼ぶ。

なんでなんで。

「少女ちゃん、開けるよ?」

ヒロトくんが私の部屋に入った。
私も後ろに続いて入る。

なんでなんでなんでなんで

「気づいてくれないの」

力が抜けて紙袋が私の手から落ちる。
声なんかもう変えない。
ヒロトくんは精一から私の声が聞こえたことに目を見開いている。
だって、精一なんかいないもん。
精一は私だよ。
なんで気づいてくれないの?

「え、少女、ちゃん?」
「ひっ…、ぅく…!気づくの遅いー…!」

涙が溢れでてくるのを感じながらヒロトくんに抱きついた。
ヒロトくんが混乱しているのがわかる。

「え、えぇ!?
精一君は!?」
「変装!
弟なんていない!」
「な、なんで…」

戸惑っているヒロトくんの服をぎゅ、と握る。

「今日、エイプリルフール」
「…あぁー…。
ごめんね?気づけなくて」

私の背中にヒロトくんの腕が回って抱き締められる。
うぅ、好きだ。

「それにしても全然分からなかったよ」
「ウィッグとサラシと服装だけでわからないもんなんだね。
それでも彼氏であるヒロトくんなら分かると思ったけどな!」
「ごめんね?」
「許さない。
ファミマの贅沢ロールケーキ買ってくれないと許さない」
「はいはい。
じゃぁ一緒に買いに行こう?」
「うん」

ウィッグをとってヒロトくんと手を繋いだ。
サラシは帰ってからでいいや。
もう二度と変装なんかしない。
気づいてくれないのは寂しいよ。

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