嫌われ

□ 空っぽの君を造り上げたのは
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バタバタと駆け寄ってくる足音が三つ聞こえる。
顔を向ければ佐久間と源田、そして不動が見えた。
なぜ不動が?と思ったが考えることすらできない。

「鬼道!*は、*はどうなったんだ!?」
「…まだ手術中だ。
かなり危ないらしい」

佐久間が泣きそうな顔でその場にくずれ込む。
源田も近くの壁に拳を打ち付けて悔しそうに歯を食いしばっていた。
不動はただ一人そんな二人を目を細めて見ていた。
手術中、と赤く光った文字を見つめる。
*が運ばれて一時間以上たった。
それが手術時間として長いのか短いのかは分からないが、俺にとってはその一時間が、一日にも二日にも感じる。
膝の上で組んだ手のひらをきつく握る。
*の行きそうなところはしらみ潰しに探したはずだったが、*は学校の屋上から飛び降りた。
まさか学校から出ていなかったとは思わなかった。

「なぁ鬼道よぉ」
「……なんだ」

いつものような茶化す声ではなく真剣な不動の声。
俺は相変わらずうつ向きながら答えた。

「なんで*ちゃんは自殺なんてしようとしたんだ?」
「……*、は…」

苛められていた。
と答えようとした口を閉じる。
実質ただ見てるだけだった俺の口から言っていいものか。
しかも今は佐久間と源田がいる。
今の状態の佐久間に言ったら今度こそ水無瀬を殺しかねない。

「…お前には関係ない」

目も向けずに言うと、おもむろに不動が近づいてきた。
そして俺の胸ぐらをつかんだ。
俺の体は簡単に宙に浮いた。
目の前にあるギラギラと光不動の獰猛な目から視線が反らせなくなる。

「あいつ、苛められてたんだろ」
「っなぜ、不動が…そのことを…っ」
「帝国にも噂流れてること知らねえのかよ。
雷門の鬼道*がサッカー部のマネージャーをいじめてるって」

不動は短く舌打ちをし、さらに続ける。

「俺はあいつと一回しか話したことがねえが苛めなんてくだらねぇことする奴じゃねえっていうのは分かる。
…なぁ鬼道、お前、なんであいつ守ってやんなかったんだよ」
「っ*に庇うなと言われたんだ!だから」
「だから庇わなかった?馬っ鹿じゃねーの鬼道くん。
どうせあいつ、自分は大丈夫だとか生ぬるいことでも言ったんだろ?
そんなん気にしねぇで庇ってやれよ!あいつの味方でいてやれよ!
苛められて平気な奴なんて一人もいねえんだよ!
お前は怖かっただけなんだよ!*と一緒に部員たちに苛められんのが!!」

怒鳴り終えると不動は荒々しく俺から手を離し、手術室の廊下から去っていった。
佐久間も危なげにだが立ち上がると俺の方に向き直った。
垂れた前髪が佐久間の顔を隠す。

「事情をあまり知らない俺が、そばにいなかった俺が言えることではないが、*を…支えてやって、ほしかった」

佐久間はうつ向いたままふらふらと立ち去ってしまった。
源田もそんな佐久間を支えるような形でいなくなった。

俺のしたことは間違っていたのか?
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