嫌われ

□息するだけで
1ページ/6ページ


次の日いつも通り朝練に行く。
部室に入ると秋ちゃんに何度も謝られた。
ごめんね、ごめんね、私のせいで。
やっぱり私が。
そう言いながら手で顔を覆った秋ちゃんの頭を撫でた。
気にしないで。
一言だけ声を掛けて朝練の準備に取りかかる。
なんかもう、喋るのすら疲れる。
別に秋ちゃんのせいとか思ってるわけではない。
ただ、人と関わることに疲れたのだ。

「…何でテメエがここにいんだよ」

がん!と朝から壁に叩きつけられた。
頭がぐわん、と揺れるみたいで気持ち悪い。
あたしはぼんやりと目の前にいる染岡を見上げる。

「さっさと辞めちまえ!」

今度は床に叩きつけられる。
咄嗟についた右手が痛い。
それに追い討ちをかけるように脇腹の辺りを踏んで、染岡は部室を出ていった。
一年生ズがあたしを蔑むような目で見てから部室を出ていく。
上級生への扱いじゃないな。
傍観していたマックが手を差し出してくれる。
小さく礼を言いながら立ち上がった。
窓際で制服についた埃や土を入念に払う。

「…ごめん」

マックがぽつりと呟いた言葉。
なんでマックが謝るんだ。悪いのは全部水無瀬さんなのに。
あたしは軽く笑って外に持っていく備品を持ち上げる。

「マックが気にすることじゃないよ」

朝練中、あたしはいない存在として扱われた。
誰もあたしに話しかけないし、ぶつかることもない。
ただし朝練が終わった後、部室の中で軽く殴られたぐらいだ。
朝練が終わって下駄箱に行くとみんなヒソヒソとあたしを指差しながら話していた。
あぁもう校内に広まったんだ。
下駄箱を開くと大量の画鋲が入っていた。
特に何も思わずに全部床にぶちまける。
ざーー、と滝のような音が響いた。
何事もなかったかのように上履きを履いて廊下を歩く。
不意にどこからか紙屑が飛んできて頭に当たる。
ぱすん、と間抜けな音がした。
気にせず歩いて教室の扉を開ける。
途端に降り注ぐ視線視線視線。
みんな嫌悪感やちょっとした好奇的な視線を向けてくる。
あたしの机を見ると花瓶と、中には一輪の菊。
クスクスと笑うクラスメート。
吐き気がする。
後から来た風丸が何か言おうと口を開いたが、すぐに閉じた。
あたしは花瓶をもって教室を出た。
もう今日は触らないであろう扉をバァン!と響かせてから。

花瓶とスクバと一緒に来たのは屋上。
やっぱここが一番落ち着く。
スクバを日陰に置いて屋上の隅に行く。
花瓶を逆さまにして水と菊が落ちるのをぼんやり見つめる。
水は凄い勢いで地面に叩きつけられた。
まるで、さっきのあたしみたいに。
菊がゆっくりと落ちていくのを見届けずに目をそらす。

儚いもんだね。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ