嫌われ

□ 狭苦しくて、
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みんなが呆然とあたし達を見る。
水無瀬さんは一筋涙を流し、膝から崩れ落ちた。
それをきっかけに豪炎寺と染岡が水無瀬さんのところへと駆け寄ってきた。
染岡が泣いている水無瀬さんの背中をさする。
さっき目薬しておいてよかったね。
豪炎寺に睨まれた。

「今、なにをした」
「見てわからない?」
「…染岡、葉月とそこにいろ」

豪炎寺はあたしの腕を力いっぱい引っ張る。
指が食い込んで痛い。
あたしの味方だった四人は何か躊躇っていて動きもしなかった。
円堂もずっとグランドを見ていた。
だよね。
ここであたしのこと庇えたらある意味凄いよ。
部室が乱暴に開けられ、豪炎寺に投げ捨てられた。
お尻痛い。
すぐ聞こえた部室の扉を閉める音。
あぁこれで目撃者もいなくなる。
豪炎寺が机の上に置いてあったあたしのバックを腕で払う。
中からカシャン、と無機質な音がした。
携帯いれっぱなしだ。
しゃがんでるあたしに豪炎寺がゆっくりと近づいてくる。
その速度が遅くて逆に怖い。

「俺は今まで我慢してきた」

ぽつり、と本当に独り言のようにもらした。

「いいよな」

何が、と聞く前に頬を叩かれた。
平手でグーじゃないだけマシかな。
頬がどんどん熱を帯びていく。
胸倉を掴まれ、引き寄せられて必然的に豪炎寺と距離が近くなる。

「っ、なに」
「サッカー部を辞めろ」

いつかは言われるかな、って思ってたけど案外早かった。
だけどあたしは。

「辞めないよ」

あたしが勝手に辞めたら秋ちゃんがどうなるかわからない。
辞めるわけないじゃん。

「……なぁ鬼道、痛いのは嫌だろう?」
「当たり前じゃん。
そんな性癖持ってないし」
「じゃぁ今のうちにサッカー部を辞めて、葉月を苛めるのをやめたほうが身のためだ」
「君が…君たちがあたしに暴力を振るうからでしょ」

あたしの言葉を豪炎寺は短く笑いとばした。

「暴力ではない、制裁だ」

あぁ、君もあいつみたいな笑い方をするようになっちゃったんだね。
可哀想に。
見下すように鼻で笑うと今度はお腹を殴ってきた。
もちろん、グー。

「っ、ぐ…!」

帝国の女子と違って男だし力が違う。
野郎、本気で殴りやがったな。
思わずしゃがみこむ。

「それにしても馬鹿なことしたな」
「…なに、が」
「あの四人、お前の味方だったんだろう?」

前髪を掴まれて無理やり顔を上げらされた。
やっぱりこう見ると豪炎寺先生と似ている。
でも豪炎寺先生はもっと優しい目をしている。

「お前、完璧一人ぼっちになったな」

こんなことも言いやしない。

「…別に、いつかは、分かってたし。
一人になることぐらい」

あたしは豪炎寺に思いっきり頭突きをした。
豪炎寺が額を押さえてあたしから手を離す。
そのすきに床に転がっているバックを持って部室から逃げ出した。
外に出ればこっちのもんだ。
人前ではあたしに手出しできないから。
突然響いた染岡の怒声に少し肩が震え足がもつれたけどグランドから走りさった。
校門を出ていつもと違う道をクネクネと走る。
途中で何度も何度も後ろを振り返って誰か追って来てないか確認して。
途中で殴られたお腹が痛くて転んだ。
痛みを振り切ってすぐに走り出す。

怖い、怖いよ。

誰も追ってきてないと分かっているのに家に入って鍵を閉めるまで走るのをやめなかった。
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