嫌われ
□ それでも世界は
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背後からいくつかの足音が聞こえる。
涙を拭ってから口をゆすいだ。
薄い紫色の水が排水口へと流れる。
「*、大丈夫か!?」
あたしが嘔吐したのが分かったのか有人が駆け寄ってくる。
後ろには一哉くんとマックと風丸がいる。
風丸か…意外だな。
「大丈夫、騒ぎすぎ」
「だが…」
「分かってる」
有人が何を言いたいかは分かってる。
伊達に幼馴染みやってない。
あれ、なんか今のセリフ格好いい。
「今日病院行ってくるからさ」
「…どこか悪いのか?」
風丸が心配そうに眉を寄せる。
なんかもう人間不信すぎてこの表情さえ信じられない。
「まぁ…ちょっとね。
てか練習はいいの?」
きゅぃ。
蛇口を閉めると甲高い音がした。
あいつの声みたいで腹が立った。
「あんな雰囲気じゃやっても意味ないからさ」
一哉くんが軽く笑いながら肩をすくめた。
確かに。
あれってあたしが悪いのかな。
「つか四人ともあたしのこと加害者扱いしないの?」
思わず聞くと四人は顔を見合わせて苦笑する。
「ボク、*があいつ苛めるとは思えないしさー。
もし苛めるとしたらもっと派手なのやると思うし。
*が暴言程度で済ますわけないじゃん」
「う、わぁ…マック、凄い失礼」
「本当のことでしょ?」
「よっしゃ一発殴らせろ」
つかあたし水無瀬さんに暴言吐いた設定なんだ。
ぱす、と力のない拳でマックの頭をはたく。
なんか嬉しくて力入らない、ちくしょ。
「俺は水無瀬が秋苛めてるとこ見たしさ。
それにぽっと出の人を信じるとかありえないから」
一哉くんがあたしの頭を数回撫でた。
恥ずかしいけど心地よい。
顔が熱くなって俯く。
「水無瀬のことは最初から気に入らなかったんだ。
喋り方に化粧に香水に。
馬鹿丸だしじゃねぇか。
あんな奴が雷門のマネージャーなんて俺は認めたくない…!」
ぐぅっと拳を握って熱弁した風丸。
なんだか可笑しくなって小さく笑う。
風丸意外と口汚いな。
不意に頭を優しく撫でられた。
見ると有人が手をあたしの頭の上に置かれている。
「俺は何があってもお前の三賢だから安心しろ」
「…………やだ、有人くさい」
くすくすと笑うと二人も笑った。
有人は口を真一文字に結んでそっぽを向く。
拗ねたとき、有人はいつもそうする。
あたしはこれから嫌われるのに、みんなで笑うなんてなんだかおかしい。