嫌われ

□待っている
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朝練が始まる前。
つまりはみんながまだ着替えてる準備時間。
春奈ちゃんと秋ちゃんがコーンを並べている。
あたしと水無瀬さんはボールが大量に入ったカゴを取りに器具庫へと向かっている。
あたしが水無瀬さんに言おうと秋ちゃんと仕組みました、はい。
そんな都合よくことが運ぶわけないよ。

「やっぱり朝は寒いねぇー」
「そだね」

器具庫のドアを開く。
外より寒いってどういうこと。

「ねぇ水無瀬さん」
「なぁに?」
「鬼道*って知ってる?」

水無瀬さんはきょとん、とするとケラケラと笑った。

「知ってるよぉ。
*ちゃんのことでしょ?」
「うん。
それで、この鬼道*って知ってる?」

黒髪の長いウィッグをかぶって眼鏡をかける。
水無瀬さんは途端に顔をしかめた。

「…やっぱり*ちゃんだったんだぁ」

あたしは眼鏡を外しながらそれはそれはにこやかに笑った。

「うん、あなたが苛めていた鬼道*だよ」

あたしは苛められていた。
この目の前にいる水無瀬さんとその愉快な仲間達に。
忘れたと思ったけど忘れてなかったんだ。
ゴミクズなくせに記憶できるんだね。
ウィッグも取ってサブバにいれてから水無瀬さんと向き合った。

「あのときはどうもありがとう。
もしかして同姓同名だと思ってたのかな?」
「そんなわけないでしょぉ?
最初っから気づいてたよぉ。
ただ時期じゃないなぁって思ってただけ」
「なるほどなるほど」

クツクツと笑い、ボールが入ったカゴを出入口へと水無瀬さんと押していく。
お互いに目は笑っていない。

「で?
どーゆーつもりかなぁ?地味子」
「秋ちゃんの代わりにあたしが嫌われてあげるよ、派手子」
「…はぁ?」
「だーかーらー」

出入口からだして器具庫の扉をしめた。

「あたしが苛められるっつってんだよ、ゴミが」

今年最高の笑みを浮かべて水無瀬さんにいい放つと、水無瀬さんは顔を歪めた。

「……ほんっと、生意気になったね」
「ありがとありがと」

ボールをカゴから出してグランドにいるみんなへと投げる。
たまに蹴ったりして半分遊んでいる。

「てかなんで派手子はここに来たの」
「*ちゃんがここにいるって知ってたら来なかったわよ」

派手子は一生懸命両手でボールを投げる。
はたから見れば可愛いけど、あたしから見たら物体がモソモソ動いているようにしか見えない。
気持ち悪!

「飽きちゃっただけよ、帝国に」

笑いを堪えたあたし偉い。

「ふーん。
で?今回はどうやってあたしを苛めるの?」
「どうしよっかなぁ。
まだ考え中」
「どうせ前みたいに派手なのやって、全校生徒の笑い物にするんでしょ」
「結局先輩たちは関与してこなかったけど、ね」

水無瀬さんはあたしを見て可愛らしく微笑んだ。

「あんなに楽しいのに。
馬鹿な人達」
「あたしはクソみたいな体験だったよ」
「そういえばまだ佐久間くんたちと繋がってるの?」
「うん、いいでしょ。
あげないよ」
「ざんねぇん、ほしかったなぁ」

二人で笑いあって最後のボールを投げる。
白と黒がくるくると回転する。

「明日から楽しみにしててねぇ?」
「うん、楽しみにしてる」

お前の居場所を無くしてやる。
あたしを前と同じだと思ったら大間違いだ。
復讐してやる。
みてろよ水無瀬葉月。

あたしはもう手は打ってある。
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