嫌われ
□待っている
1ページ/5ページ
朝練が始まる前。
つまりはみんながまだ着替えてる準備時間。
春奈ちゃんと秋ちゃんがコーンを並べている。
あたしと水無瀬さんはボールが大量に入ったカゴを取りに器具庫へと向かっている。
あたしが水無瀬さんに言おうと秋ちゃんと仕組みました、はい。
そんな都合よくことが運ぶわけないよ。
「やっぱり朝は寒いねぇー」
「そだね」
器具庫のドアを開く。
外より寒いってどういうこと。
「ねぇ水無瀬さん」
「なぁに?」
「鬼道*って知ってる?」
水無瀬さんはきょとん、とするとケラケラと笑った。
「知ってるよぉ。
*ちゃんのことでしょ?」
「うん。
それで、この鬼道*って知ってる?」
黒髪の長いウィッグをかぶって眼鏡をかける。
水無瀬さんは途端に顔をしかめた。
「…やっぱり*ちゃんだったんだぁ」
あたしは眼鏡を外しながらそれはそれはにこやかに笑った。
「うん、あなたが苛めていた鬼道*だよ」
あたしは苛められていた。
この目の前にいる水無瀬さんとその愉快な仲間達に。
忘れたと思ったけど忘れてなかったんだ。
ゴミクズなくせに記憶できるんだね。
ウィッグも取ってサブバにいれてから水無瀬さんと向き合った。
「あのときはどうもありがとう。
もしかして同姓同名だと思ってたのかな?」
「そんなわけないでしょぉ?
最初っから気づいてたよぉ。
ただ時期じゃないなぁって思ってただけ」
「なるほどなるほど」
クツクツと笑い、ボールが入ったカゴを出入口へと水無瀬さんと押していく。
お互いに目は笑っていない。
「で?
どーゆーつもりかなぁ?地味子」
「秋ちゃんの代わりにあたしが嫌われてあげるよ、派手子」
「…はぁ?」
「だーかーらー」
出入口からだして器具庫の扉をしめた。
「あたしが苛められるっつってんだよ、ゴミが」
今年最高の笑みを浮かべて水無瀬さんにいい放つと、水無瀬さんは顔を歪めた。
「……ほんっと、生意気になったね」
「ありがとありがと」
ボールをカゴから出してグランドにいるみんなへと投げる。
たまに蹴ったりして半分遊んでいる。
「てかなんで派手子はここに来たの」
「*ちゃんがここにいるって知ってたら来なかったわよ」
派手子は一生懸命両手でボールを投げる。
はたから見れば可愛いけど、あたしから見たら物体がモソモソ動いているようにしか見えない。
気持ち悪!
「飽きちゃっただけよ、帝国に」
笑いを堪えたあたし偉い。
「ふーん。
で?今回はどうやってあたしを苛めるの?」
「どうしよっかなぁ。
まだ考え中」
「どうせ前みたいに派手なのやって、全校生徒の笑い物にするんでしょ」
「結局先輩たちは関与してこなかったけど、ね」
水無瀬さんはあたしを見て可愛らしく微笑んだ。
「あんなに楽しいのに。
馬鹿な人達」
「あたしはクソみたいな体験だったよ」
「そういえばまだ佐久間くんたちと繋がってるの?」
「うん、いいでしょ。
あげないよ」
「ざんねぇん、ほしかったなぁ」
二人で笑いあって最後のボールを投げる。
白と黒がくるくると回転する。
「明日から楽しみにしててねぇ?」
「うん、楽しみにしてる」
お前の居場所を無くしてやる。
あたしを前と同じだと思ったら大間違いだ。
復讐してやる。
みてろよ水無瀬葉月。
あたしはもう手は打ってある。