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クラスに転校生が来た。
名前は神ノ御夕映。
普通。
本当に普通の女。
転校生と聞いて少し興味があったが、予想を越える平凡さに心底萎えた。
だからその普通すぎる転校生が俺の隣の席でもなにも気にならない。
むしろ「あぁお前いたんか」というような言葉すら言える妙な自信さえある。

「仁王くん、教科書見せてもらってもいい?」

神ノ御がこちらの様子を伺うようにして話しかけてきた。
俺は神ノ御に一瞬だけ目をやり、数学の教科書を半ば投げる形で渡した。
興味のない対象はとことんどうでもいいと思う俺。
まぁ教科書を貸してやるだけありがたいと思うんじゃな、と心のなかで呟いた。

「あの、これだと仁王くんが見れないんじゃ」
「サボる」
「でも」
「うっさい。
お前にとやかく言われる筋合いないじゃろ?」

そう冷たく言い放ち、席を立った。
隣の神ノ御は呆然と俺を見上げている。
それに少し優越感を感じながら教室を出た。


太陽の光は苦手じゃ。
屋上の日陰部分に膝を抱える形で座り込む。
春とはいえ日に当たりながら寝たら暑くてしょうがなくなるだろう。
小さく欠伸をし、壁に寄りかかる。
さて眠ろうと目を瞑った瞬間、屋上に凄まじい音が響いた。
バン!と扉を思いきり開ける音。
最高潮だった眠気は覚めてしまい、同時に苛立ちが募るのを感じる。

「仁王くん」

入り口には怒っているのか眉間に皺を作った神ノ御がたっていた。
怒りたいのはこっちじゃと怒鳴りたくなる気持ちを抑える。

「あのさ、そりゃぁたいして仲のよくない私に教科書貸したくなかったのは分かるに?
だからといってあの渡し方はないと思う。
あと今年で中三なんだから授業サボるのは成績的によくないに。
出席回数も含まれるんだら?
だからなるべく授業出た方がいいに」

神ノ御はペラペラと所々可笑しな単語を挟みながら説教をしてきた。
たぶん眉をひそめているであろう顔を隠さずに神ノ御に問いかける。

「…語尾に、に、とか、だらって付けとるがなんじゃ?」
「ん、あぁ…遠州弁だに?
私の住んでたとこの方言」
「遠州…?」
「静岡の。
仁王くん私の自己紹介全く聞いてなかったら?」

あんなに必死にやったのに、とぶちぶちと言った神ノ御がため息をついた。

「静岡から来た神ノ御夕映です。
時々方言が混ざるかもしれませんが、気にせず仲良くしてくれると嬉しいです。
好きなことはテニスなどの球技です。
よろしくお願いします」

軽く頭を下げ、あげたときの神ノ御の顔は素晴らしいほどドヤ顔だった。
若干それに引きつつ、あぁそんなことも言ってたな、と思った。

「…で、なにしにきたんじゃ」
「いきなり話飛んだね。
まぁ仁王くんにイラっときて、その旨を伝えに来たと思ってくれていいに」
「またでた」
「方言だからしょうがないじゃん。
そういう仁王くんは広島の人?」
「さぁどうかのう」
「変なやつ」

神ノ御は人懐っこそうに笑うと、文句を言いに来ただけらしく、じゃぁと屋上を出ていった。


妙な喪失感を覚えながら見上げた空はムカつくほど青かった。



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