middle

□8
1ページ/1ページ


「夕映ちゃん!!」
「・・・」

朝練の途中、基山先輩が私を呼んだ。
大声で。

後ろを見ると、先輩が涙目で走ってきてるのが見えた。
ため息を吐いた私は先輩を無視する。

「夕映、ちゃん!」

ぱしっ、と軽い音がして私の手が先輩につかまれる。
早い、もう追いついたのか。

「・・・なんでしょう」
「あ、あの・・・ご、ごめ」
「すいません離してくれませんか?
さっきから手、強く握りすぎです」

ギリギリと掴まれていた手が圧迫感から解放される。
痛かった。痣になってないといいが。

「えっと、あ、朝は本当にごめん!!」

ガバっ!と思いっきり先輩が頭を下げる。
私はそれを見下ろす。

「夕映ちゃんがそういうのに慣れてないのはわかってたけど、つい晴矢とかと話してる感じで喋っちゃって、あの、本当にごめんなさい!!」

「・・・先輩」

私がはぁ、と深くため息を吐くと、先輩が顔を上げた。

その顔はいたずらがバレた子供の様。

「・・・先輩は、謝るのが遅いんです」

「・・・だって夕映ちゃん走って行っちゃったし」
「追いかけるでしょう、普通」
「夕映ちゃん嫌がるかな、って思ったら足が震えたんだ」
「情けないですね」

う、と口ごもる先輩。
私は背伸びして先輩の耳元に口を近づける。


「でもそんな情けない先輩も好きですよ」


先輩の顔を見ると目は見開かれ、驚愕、という感じの顔。
私はいたずらが成功した子供の様に笑った。
遠くからキャプテンの朝練終了の呼びかけが聞こえる。



「ではまた昼休みに」
「・・・うん。
夕映ちゃんレーダーで探すから!」


私に手を振る先輩に一言。



「気持ち悪いですよ、変態先輩」





これが私の愛の表し方とでも思ってください


だって、恥ずかしいじゃないですか

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ