uta☆puri
□Happy happy End
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『悲しくなるから私の心に触れないで』
「…なんだ、それ」
「小説のセリフです」
「ふーん」
失恋の詞を書いてくれ、と事務所の方に仕事が入った。それはドラマのBGMにも使うと言われ、力を入れているのだが、はっきり言って失恋がよく分からなかった。
恋人はこうやって隣にいるし、生活も安定しているし、何より幸せだもの。
だから失恋が描かれている小説を読んでみたのだが、あまりピンと来なかった。
うー、と頭を抱えながら小説の順序良く並ぶ文字を睨んでいると、ひょい、と本を取られた。
「なら実際にやればいいだろう?」
「…え、協力してくれるんですか?」
「ああ、する」
(何か企んでる。絶対企んでる。うん。)
でも、協力してくれるというならそれはそれでありがたいので
「よろしくお願いします」
「じゃあ、これ終わったらヤらせろ」
「何言ってるんですか。」
「冗談だ」
***
「…それで、どうするんですか?」
「簡単だ。こうやって触れたりしない」
そう言って軽くキスをされる。
「失恋の話なら恋人じゃないんだから普通にしていればいいだろ?」
「そっか、そうですね」
想いは通じない。
どれだけ想っても。
触れたくても触れられなくて、空気を切るだけで。
どうしようもない気持ちになる。
…私が砂月さんを想う気持ちはその主人公と一緒で、私は触れられるけど彼女は触れられない。
でも私が同じ立場になれば…。
「イメージが出来てきた気がします」
「…ふん、よかったな」
「素直じゃないですね―、お礼言ってるんですよ」
笑いながら天の邪鬼な砂月さんを撫でようと手を伸ばすとぱし、と掴まれた。
「そういうのしてたら意味ねぇだろ、話聴いてたか?」
「…そうでした。…つい」
キスをして、抱きしめて、主人公はこういう事なんてできないのだから。
「……、…作詞してきます」
「…ん」
***
それから5日が過ぎた。
砂月さんとは最低限の接触。
当然、キスも何もしてない。
詞も終盤まですすんだ。
彼女は彼に想いを伝えられず、独りで気持ちを箱に詰め込んだ。
「“触れることさえできないならこの手が、身体がある意味がわからない”」
「“これは神様のいじわるなのですか?この気持ちが罪というのなら私は神とやらを地に堕としてみせましょう”」
そこまで独り言のように詞を吐き出してから机に勢いよく突っ伏した。
「疲れた…。ひとりでこんなに働くの初めてかも」
いつも隣には砂月さんがいてセンスが良いからたくさんのアドバイスがもらえて長くても3日で完成させる事ができた。
「今はダメ…、だけど」
強引だけどキスとか大きな手で撫でられたりするのは優しくて大好き。
でも今はそれができなくて…。
時計を見る。
23時16分。
(まだ起きてるかもしれない…。)
「……」
ペンのフタを閉めることさえもせずに部屋を出た。
***
寝室に足を踏み入れ、ベッドで作曲をしている砂月さんに抱きつく。
「……なまえ?」
砂月さんはまだ起きていた。手元にあった楽譜の五線譜には音符がすでにたくさん書き込まれていてずっと書いていたようだった。
「砂月さん…もうイヤです。一緒にいるのに…寂しい」
「…へぇ、もうやめるか?」
「もう終わります。だからっ」
「…なら、好きにしていいンだろ?」
「…え…?」
「協力したし、我慢した」
「え…ええっ!?」
「だから好きにさせろ」
そう言って妖艶に笑う砂月さんに腕を引かれて押し倒される。
「…やっぱり最初から企んで…!」
「ああ、そうだよ」
「…!!」
「ほら、嫌じゃないんだろ?」
「言い方…やっ…んんっ」
乱暴に唇を奪われる。
気持ちは反抗しても身体は素直で久しぶりの身体が痺れる感覚を求めていた。
「…ん…っ…や」
「5日分だからな」
「…っ…くるし…っ」
久しぶりのせいか余裕がまったく無くて、受けとめるのが精一杯だった。
舌が唇を割って潜り込んで唾液をからめとる。
舌と舌が当たる度に電気が走るみたいに身体が跳ねてしまう。
「余裕無さすぎだろ」
「しょうがない…っです」
「なら支えてやるから喘いでろ」
「ちょ、どういう…っ」
「言ったろ、ヤらせろって」
「そんなの…っダメ」
「ダメじゃないしお前も別にそんなに嫌じゃないだろ」
「…!!……ばか」
私は結局、詞の主人公みたいな悲しい結末になんてなるはずもなくてこうやって口ゲンカをしながらキスしたりしてすごく幸せだった。
そう、私はとても
―…幸せです。