大友宗麟観察そのニ
□45
1ページ/3ページ
ふと、目を覚ました。体が少し重いのは気のせいだろうか。見たことのない部屋の中心で、あたしは布団の中で寝ていた。布団から出て、手を握ったりしてみた。ふと、この部屋を出てみようと思った。
『…………ここ、は』
立ち上がる時に、少し体が痛い気がしたけど気にせずに、襖をゆっくりと開けた。誰も居ない廊下はしんと静まり返って、不気味に思えた。
『誰も、居ないのか』
「…………紫智」
『………え』
後ろを振り返ったときに、すごく美しい女の人が、驚いた様子でこちらを見ていた。見覚えがあるような、無いような。
「気がついたのね……よかった」
『えっと、あの』
「竹中様に、教えてくるから……待っててね」
『…あ、はい』
質問をする前に行ってしまった。あの美しい人が言うのだから、ここで待っていれば大丈夫だろう。それにしても、豪華というか、広く威厳のある城だ。
「………紫智か!紫智なんだな!!」
『へ?』
「よかった!」
向こうからこちらに来たのは、ちょっと……逞しいです。的な、人がやけに爽やかな笑顔でこちらに来た。なんか怖い。
「意識が戻ったんだな!どこか痛くは無いか、心配したんだぞ?」
『…………』
「三ヶ月もずっと寝ていたんだ、よく起きれたな紫智」
『…………あの、ごめんなさい』
「え?」
『あなたは………誰ですか?』
迎えに来た半兵衛が、紫智の目の前で両腕を床につき落ち込んでいた家康を見つけたは、のちの皆が知ることである。
半兵衛と名乗る人物に説明されるが、その事実は自分の事なんだが何処か他人事に思える。
『半兵衛様、ご迷惑をおかけして申し訳ありません』
「いや、そんなに堅苦しくしなくて良いよ。君はもっと奔放だったからね」
『はい…ごめんなさい』
「…………よかった、紫智に忘れ去られたと思った……本当によかった」
『家康さん、忘れてしまってすみません』
苦々しく笑う紫智の頭を、市が頭を優しく撫でた。これも市のせい、と目を伏せる市に紫智は慌てた。
『大丈夫ですよ市さん、すぐに記憶なんて戻ります』
「お市殿は、紫智ちゃんが目を覚めるまでずっと隣に居たんだよ」
「儂も毎日来たんだぞ!」
『はいはい。ありがとう二人とも』
「このことを君のお兄さんに、伝えるべきだろうか悩むな………時期が時期だし」
『私には………兄が、居るのですか』
「…紫智が大好きなお兄さんが、いるよ」
「そうそう、紫智はお兄さんが大好きでな。いつも兄の話しになると嬉しそうにしていた」
『お兄ちゃん…お兄ちゃん………』
その言葉が気になるのか、何度も何度も呟いていた。しかし、途中で諦めたのか頭を振った後に三人を見た。
『すみません、何か引っかかるんですが駄目です』
「無理にはいけないよ、ゆっくりで良いんだからね紫智ちゃん」
『はい、半兵衛さん』
「儂の事は、家康で良いからな!前もそう呼んでいたんだ」
「半兵衛、目が覚めたというのは本当か」
『…………この方は』
部屋に入ってきた、巨大なゴリラ………ではなく巨大な人。その大きさに、唖然としてオレは見つめた。
「ああ、彼は「秀吉さばあああああああああ!!!!」
「………三成か」
耳が裂けるくらいに大きな声が響き渡り、思わず耳を塞いだ。しかし、周りの四人は何事もないようにいる。慣れているのか、この爆音に。すげえなおい。
『えっと、貴方の名前は秀吉さばあ、さんですか』
「………紫智、違うよ」
お市が呆れながら突っ込んだが、そう認識していた紫智は不思議そうに市を見ていた。その様子を見て、クスクスと笑いをこらえるような声が聞こえた。
『半兵衛さん……家康?』
「…………ハハハハハハ!実に紫智らしい勘違いだな!三成、もう少し声を抑えろって」
「貴様に関係ない、と言うか貴様!!秀吉様の名前を間違えるな!!」
「秀吉さばあさん……フフフフ、やはり紫智ちゃんは紫智ちゃんのようだね………ククク」
『秀吉さんでしたか、これは失礼』
笑う家康と半兵衛を見て紫智は、不思議そうに頭をかしげた。三成と呼ばれた男も、わけが分からずに仏頂面でこちらを見ていた。
「貴様は家康が言っていた大友の妹か」
『はい、貴方は三成さんですね』
「っふん」
鼻で笑う三成に、内心態度でかいなこいつ……三角頭だし変わり者だな。と、少々罵倒しながらも紫智は笑った。
『そして貴方は、秀吉さんですね』
「秀吉、紫智ちゃんは記憶喪失のようなんだ、自分の名前も忘れてしまったようだよ」
「そうか………やはりこの娘は」
『っ』
頭に乗っかろうとした手が、何故か一瞬寒気がするくらいに嫌だった。その手が、頭を優しく撫でていると気づくのに、しばらく気づけなかった。
「どうしたの……紫智?」
『あ、いえ………なんでもありません』
「顔色が悪いよ、急に起きて疲れたようだね」
「何か食べるか、用意させるぞ」
『大丈夫です……あまり、腹が減らないんですよ』
「少しでも食べよう、三ヶ月も何も食べていないのだ。普通なら生きていることが奇跡なんだ」
「しかし、急に食べても体に悪いね。白湯位なら飲めるかな」
死んだように眠っていた、時々、悪夢を見ているのか、ひどくうなされてはいたがまた眠り続け、決して目覚めなかった。その紫智が、こうして生きている事が奇跡なのだ。記憶が無くてもいい、儂が守ってみせる。
「儂が取ってくるよ」
『ありがとう、家康』
「……す、すぐ取ってくるからな!」
少し急いで廊下を進んだ家康が、なんだか少し機嫌がよさそうに見えたらしい。