大友宗麟観察そのニ

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ふと、目を覚ました。体が少し重いのは気のせいだろうか。見たことのない部屋の中心で、あたしは布団の中で寝ていた。布団から出て、手を握ったりしてみた。ふと、この部屋を出てみようと思った。

『…………ここ、は』

立ち上がる時に、少し体が痛い気がしたけど気にせずに、襖をゆっくりと開けた。誰も居ない廊下はしんと静まり返って、不気味に思えた。

『誰も、居ないのか』

「…………紫智」

『………え』

後ろを振り返ったときに、すごく美しい女の人が、驚いた様子でこちらを見ていた。見覚えがあるような、無いような。

「気がついたのね……よかった」

『えっと、あの』

「竹中様に、教えてくるから……待っててね」

『…あ、はい』

質問をする前に行ってしまった。あの美しい人が言うのだから、ここで待っていれば大丈夫だろう。それにしても、豪華というか、広く威厳のある城だ。

「………紫智か!紫智なんだな!!」

『へ?』

「よかった!」

向こうからこちらに来たのは、ちょっと……逞しいです。的な、人がやけに爽やかな笑顔でこちらに来た。なんか怖い。

「意識が戻ったんだな!どこか痛くは無いか、心配したんだぞ?」

『…………』

「三ヶ月もずっと寝ていたんだ、よく起きれたな紫智」

『…………あの、ごめんなさい』

「え?」

『あなたは………誰ですか?』

迎えに来た半兵衛が、紫智の目の前で両腕を床につき落ち込んでいた家康を見つけたは、のちの皆が知ることである。





半兵衛と名乗る人物に説明されるが、その事実は自分の事なんだが何処か他人事に思える。

『半兵衛様、ご迷惑をおかけして申し訳ありません』

「いや、そんなに堅苦しくしなくて良いよ。君はもっと奔放だったからね」

『はい…ごめんなさい』

「…………よかった、紫智に忘れ去られたと思った……本当によかった」

『家康さん、忘れてしまってすみません』

苦々しく笑う紫智の頭を、市が頭を優しく撫でた。これも市のせい、と目を伏せる市に紫智は慌てた。

『大丈夫ですよ市さん、すぐに記憶なんて戻ります』

「お市殿は、紫智ちゃんが目を覚めるまでずっと隣に居たんだよ」

「儂も毎日来たんだぞ!」

『はいはい。ありがとう二人とも』

「このことを君のお兄さんに、伝えるべきだろうか悩むな………時期が時期だし」

『私には………兄が、居るのですか』

「…紫智が大好きなお兄さんが、いるよ」

「そうそう、紫智はお兄さんが大好きでな。いつも兄の話しになると嬉しそうにしていた」

『お兄ちゃん…お兄ちゃん………』

その言葉が気になるのか、何度も何度も呟いていた。しかし、途中で諦めたのか頭を振った後に三人を見た。

『すみません、何か引っかかるんですが駄目です』

「無理にはいけないよ、ゆっくりで良いんだからね紫智ちゃん」

『はい、半兵衛さん』

「儂の事は、家康で良いからな!前もそう呼んでいたんだ」

「半兵衛、目が覚めたというのは本当か」

『…………この方は』

部屋に入ってきた、巨大なゴリラ………ではなく巨大な人。その大きさに、唖然としてオレは見つめた。

「ああ、彼は「秀吉さばあああああああああ!!!!」

「………三成か」

耳が裂けるくらいに大きな声が響き渡り、思わず耳を塞いだ。しかし、周りの四人は何事もないようにいる。慣れているのか、この爆音に。すげえなおい。

『えっと、貴方の名前は秀吉さばあ、さんですか』

「………紫智、違うよ」

お市が呆れながら突っ込んだが、そう認識していた紫智は不思議そうに市を見ていた。その様子を見て、クスクスと笑いをこらえるような声が聞こえた。

『半兵衛さん……家康?』

「…………ハハハハハハ!実に紫智らしい勘違いだな!三成、もう少し声を抑えろって」

「貴様に関係ない、と言うか貴様!!秀吉様の名前を間違えるな!!」

「秀吉さばあさん……フフフフ、やはり紫智ちゃんは紫智ちゃんのようだね………ククク」

『秀吉さんでしたか、これは失礼』

笑う家康と半兵衛を見て紫智は、不思議そうに頭をかしげた。三成と呼ばれた男も、わけが分からずに仏頂面でこちらを見ていた。

「貴様は家康が言っていた大友の妹か」

『はい、貴方は三成さんですね』

「っふん」

鼻で笑う三成に、内心態度でかいなこいつ……三角頭だし変わり者だな。と、少々罵倒しながらも紫智は笑った。

『そして貴方は、秀吉さんですね』

「秀吉、紫智ちゃんは記憶喪失のようなんだ、自分の名前も忘れてしまったようだよ」

「そうか………やはりこの娘は」

『っ』

頭に乗っかろうとした手が、何故か一瞬寒気がするくらいに嫌だった。その手が、頭を優しく撫でていると気づくのに、しばらく気づけなかった。

「どうしたの……紫智?」

『あ、いえ………なんでもありません』

「顔色が悪いよ、急に起きて疲れたようだね」

「何か食べるか、用意させるぞ」

『大丈夫です……あまり、腹が減らないんですよ』

「少しでも食べよう、三ヶ月も何も食べていないのだ。普通なら生きていることが奇跡なんだ」

「しかし、急に食べても体に悪いね。白湯位なら飲めるかな」

死んだように眠っていた、時々、悪夢を見ているのか、ひどくうなされてはいたがまた眠り続け、決して目覚めなかった。その紫智が、こうして生きている事が奇跡なのだ。記憶が無くてもいい、儂が守ってみせる。

「儂が取ってくるよ」

『ありがとう、家康』

「……す、すぐ取ってくるからな!」

少し急いで廊下を進んだ家康が、なんだか少し機嫌がよさそうに見えたらしい。
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