大友宗麟観察そのニ
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やあ、こんにちは。今日は珍しく部屋で大人しくしている紫智です。
理由?簡単だよ。
『………お前、仕事あったんだな』
「暇なら手伝え」
『あ、お腹痛い』
「…っふん、当てになんざしてねえよ」
このバカ信長の政務が蓄まりに蓄まって、今日は一日政務らしいからだ。
暇だから、隣で市ちゃんと待機していた。
「……大丈夫紫智?」
『い、痛い。優しさが少ない良心に刺さる』
「お前、良心あったんだな」
『墨ぶちまけるぞ』
「悪かったから墨汁を構えるな、本当にマズい」
『勝ったー』
「…………はぁ」
珍しくため息を吐いた信長に、紫智は指差しながらケラケラと笑った。
『さすが次期織田家の後継ぎ、政務があるんだな』
「年中暇人のお前と一緒にするな」
『市ちゃん、こいつあたしらを侮辱したぞ』
「市、バカの声に耳を貸すなよ」
『シスコン差別反対ー』
「だからその、しすこんってなんだよ」
信長の初々しい発音に吹き出すのを抑えて、笑いを堪えながら言った。シスコンの意味知ったら、ぶん殴られそうだもんな。
『知らぬが仏』
「……わかることは一つ、絶対に後で殴る」
『意味知らないのに?』
「どうせまともな答えじゃねえ」
『暴力反対』
拳を構えた信長に、少し冷や汗を流しながら紫智は手を上げた。
「反対を拒否する、それと少し黙れ」
『うぃ』
真面目に政務を続ける後ろ姿を見ながら、感心しながらも市ちゃんと話を続ける。
「……紫智って、朝は嫌い?」
『あー……あたし朝に弱いんだよ』
「弱いの?」
『うん、寝起きは機嫌が悪いから気をつけてねな』
「大丈夫……紫智は優しいから平気」
『可愛いこと言うなぁ、市ちゃんは朝苦手か?』
「市は平気だよ」
『そっか』
「紫智、茶」
『はいよ………っあたしはお母さんか!?』
立ち上がり襖を開けた所で気付き、襖を閉めてからツッコんだ。
「っち」
『何こいつ、いきなり茶を要求しやがった』
「うるせえ、茶持ってこい」
『文句を言わせろ!』
「却下」
『………信長なんか嫌いだああああ!!スカポンタン!』
「っな!スカポンタンってなんだよチビ!?」
「………兄様、怒る場所はそっち?」
乱暴に襖を開け、走っていった紫智に信長はツッコんだ。そして、それに対してもゆっくりと市がツッコんだ。
「あの野郎……」
「紫智、行っちゃった…」
「あいつが勝手に行ったんだろ、オレは悪くねえ」
オレに非はない、ただあいつが勝手に走って行ったんだろ。なんとなく、ムカついたから茶を持ってこさせようとしただ。
オレは悪くない……はずだ。
「…………市」
「何?」
「ちょっと厠に行ってくる」
「うん……わかった」
厠に行くだけだ……あのチビは、一応ついでだからな?
厠に行く途中で、部屋を覗いたりしてみたが紫智の姿は無かった。
「おい、あのチビを見たか?」
「は、はい!あちらに走っていきました!」
いきなり話しかけられ、戸惑いながら話した家臣に礼も言わずに、オレはそちらに歩いた。
同じ事を見かけた奴に聞いてみたが、繰り返しのように走った方向を教えられた。
「…あのクソチビ、見つけたら殴る」
なんでイライラするんだ、オレは。放っておけばいいが、探している。
最近のオレはどこかおかしい。
『………殴られる理由が見当たらないんだけど』
「お前……どこに居たんだ」
『お茶をくんでたの、それとお菓子貰ったの』
紫智の持っているお盆には、お茶が三人前と茶菓子が二人前あった。
「お前の茶菓子はどうした?」
『いらねえ、和菓子は苦手なんだ』
「……そうか」
『あれ、なんか不機嫌じゃん。どうしたの?』
「なんでもねえ、行くぞ」
『あ、ちょっと茶がこぼれるから!』
腕を掴み大股に元の道を引き返せば、慌てた様子で紫智が追ってきた。なんとなくだが、少しイライラがスッとした気がした。
部屋に戻ると、市が静かに待っていた。市を見つけた紫智が早足で市に近付いていった。また、イライラが感じる。
『市ちゃん〜お茶持ってきたよ』
「ありがとう」
「お前、茶を入れれたのか?」
『まあな、よく兄ちゃんに入れていたし』
「兄ちゃんって……宗麟って言う人?」
『……さあねぇ』
歯切れの悪い返事をしながら、お茶とお茶菓子を二人に見せた。
政務を続けながらも、また話を始めた紫智の話に耳を傾けた。
体験談を話す紫智は、どこか懐かしそうに語っていた。