大友宗麟観察日記!
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『それは………私のお稲荷さんだ…………』
「…………はぁ」
隣で熟睡している子供に、明智は通算、百は超えるだろうため息をついていた。
「戦いの最中の貴方は、とても良かったですけどね………」
戦いが終わった今、この子供、紫智は生きる知恵を持っている単なる子供にしか思えない。
昨日の命のやり取りは、ぞくぞくして震えが止まりませんでした。一瞬の隙すら許されない、極限の殺し合い。
ああ、もう一度あれを味わいたい。
『兄ちゃ………大好き………』
小さく笑っていた。無垢なその笑みに、私の何かがゆっくりと沈んでいく。
今の紫智は、私の求める強さとは真逆の何かを持っている。
その強さを私は知っているが、私には必要ない。破滅の煌きに、純粋な光は眩しすぎるのですよ。
『…………お兄ちゃん』
「それは私の手ですよ」
しっかり握られた自分の手をみて、引き離そうと手を伸ばしたが、その手を紫智の頬に伸ばした。
『……ずっと……』
夢の兄と私を間違えているためか、頬に伸ばしたが微笑むだけだった。
「私にも、こんな妹がいたら………」
ふと考えたが、すぐにその考えは消えた。紫智は私の妹でなくて良かった。
死神の妹なら、こんな純粋に育つ訳がない。
『ん…………ぁ?』
「やっと起きましたか、紫智は眠り姫ですか?」
『…………恥ずかしい台詞を、朝からありがとう』
「照れましたか?」
『胃がムカッてした』
「そうですか、それは良い目覚めですね」
『っイラ』
イラっとした紫智の顔を見て、明智はやんわりと目を細め笑っていた。
その笑みに死神の面影は、何処にも残ることが無かった。思わず、目を見開いたあたしに明智がいつもの表情に戻り話しかけた。
「どうしましたか?」
『いや………別に?』
「疑問系で言わないでください」
『…………ふ〜む』
「何をしているのですか?」
がさごそと、自分の荷物を漁っている紫智に質問をしたが、気づいていないようで返事はなかった。
『…………あった!ナイス紙、じゃなくてナイス自称神!!』
「ないす……異国語ですか?」
『じゃっじゃーん!方位磁石ー!』
「未来の青い狸ですか、似ているますよ」
『え、知ってるの?』
「さあ?」
『ちょ、こっち見て答えろ』
青い狸を知っているだと?
思わず少しムキになって訊ねたが、涼しい顔で交わされた……ムカつく。
「で、それは何ですか?」
『これ?これは方位が分かる道具、赤いほうが北なんだよ』
「便利ですねー」
『便利だろー』
前に漁ったときに、たまたま見つけた方位磁石。神が入れてくれて本当に助かった。
「それで、方位がわかっても現在地はわかりませんが?」
『あたしは前田領に旅で来ていた、森は前田から南、つーことは』
地面のラフに地図を書いて、流されたと言ってもそこまで流されてはいないはず……たぶんね。
『南なら松永、東なら浅井、西は…………あれ?』
「西なら織田ですよ………この私が所属するね」
はい、危険すぎる西と南ですね!!
織田とか絶対に死ねって言うもんだろ?松永………っは。
『よし、西と南は危険だなあたしは北東を目指すか!』
「そうですか、では私は西へと向かいますか」
『ん、そうか』
じゃあ、これでお別れだな。過去にまさか、明智と交流があったとはな。未来の明智は、過去のあたしをわかっているのか?
……ま、考えても無駄か。
『じゃあな』
「ええ、それでは」
お互い、背を向けて歩き始めた。あたしは東へ、明智は西へ。
『………明智』
「なんです―――」
『っふん、未来の仮はここで返す!じゃあな!』
小さなリップ音が耳元で響き、笑いながら去っていく少女を明智は少しぼうっと見つめていた。
そして静かに考えていた。
少女の言う、未来での仮とはいったいなんなのだろうか?
『恥ずかし………』
後で口洗おう、自分の行動に驚きながらも全力疾走で走った。