大友宗麟観察日記!

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『だから、嫁の隣に行けって言ってんだろが。浅井さん』

最近厄日が多い気がする。いや、毎日が厄日に等しい気がする。
隣に現れた生きて会うことのなかった浅井長政、その霊を会話をしている。

「市を助けたいと言うのは嘘なのか!?」

『貴様じゃなくて紫智、それにあたしは女性尊重主義なんだよ……』

「差別は悪だ」

『戦国時代に平等を求めるな』

さっきからずっと同じ繰り返しに、何度目かのため息を吐いた。
戦国時代にそもそも平等な事ってあるのかすら解らないけどね。

『つか夢枕に立つなよ、悪霊だと思ったわ』

「私が悪霊だと!?」

『夢枕に立った時点で良い霊ではないからな』

「断じて拒否する!」

『拒否以前の問題だ!』

「拒否!」

そう、ただ今大友紫智は寝ています。布団の中で爆睡中ですよ?
なんで夢に出てくるんだよこの人、人権無視は絶対に悪だぞ。

『まぁ、貴方がやりたいことは予想つくけどさ』

「ならばっ!」

『行ってどうする?最愛の花嫁と一緒にあの世にでも行くのか?』

急に威圧的に言う少女の言葉に、一瞬思わす息をのんだ。冷たく睨んでいる瞳は、怒りすら感じた。

『今のお市さんは精神がボロボロだ、今貴方を見たらどうなる?』

「ならば、このまま見捨てろを言うのか!?」

『何もできない癖に、余計傷つけるつもりなのか』

「違う!」

『違わない!今のあんたは迷っているじゃんか!』

はっきりと断言され、私は言い返せなかった。確かに迷いはある、何を言うべきなのか、解らない。

『いつも突き進むあんたはどうした?何を迷っているんだ?』

今の市に会ったら、確かに私は何を伝えれば良いだろうか?もし、市がこちらに来たいと言ったら?

『浅井長政、市さんに死んで欲しいのか?』

「そんな訳ないだろう!?」

『…なら、伝える事は決まってんだろ』

市に言葉を伝えて通じるかは解らない。しかし、市ならわかってくれる。私が愛した、唯一無二の嫁なのだから。

『思いを正直に伝えろ、市さんなら伝わる』

「………ああ、そうだな」

『力は貸してやる、あたしに霊感があったことに感謝してくれよ』

「一つ聞いて良いか、紫智」

『なに?』

力を使うのか、軽く肩を回している紫智の後ろ姿を見つめながら問うた。

「何故、市を気にかける?知り合いでもなんでもない市を、何故そこまで助けたい」

『………なんでかな?』

「わからないのに、助けるのか?」

『放っておけないんだよ、儚く美しい人は、弱い』

「それは、紫智の正義なのか」

『………言うならば、罪滅ぼしか、我が為か。憂き過去の身の、我と比べて』

一句詠みながら、紫智は笑ってこちらを見ていた。
その言葉の意味は分からなかったが、この娘が背負うものの大きさが、理解できていた気がした。





「いかなる布陣をもってもできぬ事が、己にはできるやもと………」

『………』

あたしには理解できない。
人を愛する事の大切さが。だけど、この人たちは知っている。お互いを愛し合う事を。

「長政………様」

だからこそ、それが羨ましく守りたいと思った。

理解できない、人を愛する事なんざ。いつらは自分の知らない事を知っている。

『まあいい、か』

やっぱり理解できない、だけど、これできっと良かったんだよな?

ゆっくり紫智は抜け出した部屋の方に歩いていった。
これから、自分はどうすべきか自分自身に問いながら。

『この運命は、鬼が出るか蛇が出るか………それとも』
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