大友宗麟観察日記!
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額に手を当て、次に手の脈を確認した。
『熱は無し、呼吸も脈も正常だな』
明智は無事なようだった、流石は変態。しぶとい。
『よかった……』
基礎看護を習っていてよかった。簡単で最低限の処置だけなら、あたしにだってできる。
『……そう言えば、ここは何処だ?』
今さらだけど、現在地が分からない。ここは前田領地から、あんまり離れてはいないはず。しかし、わからない。
完璧な迷子だ。
『あーあ、怒られるな。確実に』
日は傾いている。今から帰ろうにもどっちに行こうか。飛んで帰るにも、方向が解らなきゃ何処にも行けない。
つまり、八方塞がりだ。
ならこうして火の近くで、ジッとしたほうが良いに決まっている。
『………あたしは何時、帰れるんだろうな』
火に当たりながら考えている。大友ではなく、現代に帰るのかを。
『帰りたいのに、帰りたくない』
帰りたい。待っている兄ちゃんに会いたい。
けど、ここに居たい。大切な者が、この世界で増えすぎた。
だけど、兄ちゃんを裏切りたくない。兄ちゃんは全てだから。
会いたい、けど、みんなと別れたくない。
『どうして、どうして?』
天秤が、あたしの中の兄を弱くする。それは許されないこと。なのに、天秤が傾きを変えていく。
『………普通の子供だったら、苦しまなかったのに』
「さあ、それはどうでしょうね」
不安に打ち破るように聞こえた声に、一瞬肩が跳ねたがそのままそちらに視線を向けた。
『なんだ起きてたんだ、寝たふりなんて酷いな』
「少し前から、それにしても………貴方は馬鹿ですか?」
『馬鹿だけど?』
「貴方は自分を襲った相手を、わざわざ手当てして助けるのですか?」
『困った時は助ける、それが人じゃないのか?』
「…………本当に、馬鹿ですね」
『照れるなー』
わざとらしく言ってみたが、大きなため息をつかれた。
「……はぁ」
『ため息つくと、幸せ逃げるぞ?』
「貴方を見ていると、どうでもよくなりますよ……はぁ」
それを当然そうにこちらを見る紫智は、この乱世を生きるには、余りに純粋すぎる様に見えた。
無邪気で純粋なモノほど、簡単に壊される乱世の中を、ただ純粋に生きている。
『それに、現在地わかんない』
「奇遇ですね、それは私もですよ」
『なら、下手に行動しても死ぬだけだろ?』
「子供にしては正しい判断ですね」
火も自分で起こし、冷静にこの状況を判断している。先ほどの発言といい、謎だらけの子供ですね。
『ん』
短い言葉と共に、気絶した間に捕まえたのか魚を差し出した。火には他の魚が刺して焼かれていた。
「貴方はいいのですか」
『もう食った』
「そうですか」
『それより………さっき言ったよな』
「ああ………貴方の独り言にですか?」
『そう』
その答えの理由を聞きたいのか、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいた。
そんな簡単で単純な事に悩む、意外に子供らしい無知なところがあるのですね。
「どんな人でも、悩みますし苦しみます」
『…特殊ゆえに、悩む人もいる』
「平凡ゆえに悩む人だっていますよ?」
『………そうだけど』
紫智の言う特殊の意味はわかりませんが、答えは簡単でしょう。どんな人間だって、悩みますし後悔くらいします。
「それならば、後悔をしないことですね」
『後悔しない?』
私の言葉に、紫智は不思議そうにこちらを見ていた。能力は大人も顔負けですが、やはり中身は子供ですね。
「どんな結果になろうが、それは貴方が選んだ道。吹っ切ればいいのですよ」
『………それが、間違っていても?』
「それを間違いと決めるのは紫智でしょう?」
『………ありがと』
「どういたしまして」
パチリと、焚き火が音をたてた。
悩みの種を燃やすように、音を立てて燃えていった。
私はこの少女を知らない。
なぜこんな子供に、こんな事を言ったのかは分からない。ただ、帰蝶が言ったある言葉を思い出しました。
人が人を助けるのに、理由なんで要らないでしょ?
………変わった旧友の前の姿を、重ねたのかも知れませんね。