番外編

□真昼の七つ星
2ページ/18ページ

「その前に雅尚様……いえ、つゆさ殿をお呼び下さい。話はそれからです」
「…………」
(この女……)
 雅尚が女で、更にその真名まで知っているとは何者だ。
 ――これはそう簡単に雅尚に会わせるわけにはいかない。
 ゆえに尚秋は口角を上げて、わざと相手を挑発するように告げた。
「何処の者とも知れぬ貴様に、我が邸の大事な女房を会わせるわけにはいかないな。どうしても奴に会いたいというなら、せめて名を名乗れ。それが礼儀というものだろう?」
 嘲(あざけ)りと取られても仕方のない、むしろそう思わせるように仕向けた笑みを浮かべたというのに、目の前に座する年若い女房はキョトンと目蓋を瞬くだけで不快感を顕(あらわ)そうとはしない。
 それどころか言っていなかったか、と不思議そうにしている始末。
 これにはさすがの尚秋も毒気を抜かれたようで小さく嘆息すると、漸(ようよ)う口を開いた。
「……申し訳ない、礼を欠いた物言いを詫びる。それで、お前の名は?」
 再度尋ねられた言葉にハッとしたのか、女房は慌てて頭を下げる。
「申し遅れました。私、鈴乃と申します。この度尚秋様とつゆさ殿にお尋ねしたい儀があり、こうして参上した次第にございます」
「私にもか? ――なら先に言え。つゆさに会わせるのはそれからだ」

*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ