夢、幻の想いや如何に
□黄昏と覚りの影
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夕暮れの街路樹が黄金に輝き、耳には夏の終わりを惜しむかのように鳴き続ける蜩(ひぐらし)の声が届く。
山間部(さんかんぶ)に位置する此処、覚稜(かくりょう)町の景色は既に夏から秋へと衣替えをしている。
朝夕は気温が低く寒いぐらいで、昼はまだ僅かながらにも暖かい。
そんな秋の訪れを感じながら人々は穏やかに暮らしていた。
――そう、一つの事柄を除けば。
この町、いや村だった昔から語り継がれる言い伝えが人々の不安を駆り立てていた。
それは秋のいずれかの日、夕暮れの木々に囲まれた道を歩いていると別世界に引きずり込まれるというものだ。
この現象に決まった日にちはなく、ただ判っているのは秋の三週目に当たる日のどれかだという事だけ。
他に明らかになっている事はない。
何故なら昔、この現象に遭遇したのはたった一人なのだ。
そして……
その者は今も見つかっていない。
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