契りの桜

□第三段◇秘める想
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 乞巧奠(きこうでん)が行われたその夜、清涼殿では秘密裏に話し合いが為されていた。
 本来夜に帝の寝所である清涼殿に人が立ち入るのは禁止されているが、今回はその主上(おかみ)たっての希望、もとい命令で召集された者なので何ら問題はない。
 ――そう、問題ないのだ。帝側からすれば。
 しかし呼び出された方にしてみれば迷惑以外の何ものでもない。
 ただでさえ最近は今日のために皆忙しくしていたのだ。
 なのに行事が終わると同時に命を下されたとあっては堪ったもんじゃない。
「いい加減にしろよ、お前」
 低い、怒りを押し殺した声が広廂(ひろびさし)に響く。
 通常より声量を落としているとはいえ、やはり夜。思ったより声が響いてしまう。
「尚秋(さねとき)、聞こえるぞ」
 口元に指を当てて注意する明仁(はるひと)は女房が控えている方を目線で示した。
 それに尚秋(さねとき)は顔をしかめ、同じようにそちらを見る。
 しかし女房達がやってこないところをみると、どうやら聞こえてはいないらしい。
 その事にホッと息を吐くと、尚秋(さねとき)は先程より声を落として言う。

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