契りの桜

□第十三段◇菩薩の戒
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 ――――――……

「月影、本当のことを教えてくれ……!」
 何がお前をそこまでさせる。なんで義悪に徹する。
 ――本当の月影は優しい奴なんじゃないのか。
 残された家族を悲しませないように、死した者を嘆かさないように。
 見ず知らずの人間のために自らの手を汚せるお前は……。
 必死に声を張り、切なさに顔を歪める雅尚を一瞥して月影は重い口をゆっくり開いた。
「俺は……」
 刹那、辺りを暗闇が覆う。
 それと同時に吹き荒れた嵐のような風に、彼の儚い声量の言葉は掻き消される。
 ――まるで業風(ごうふう)のようだ、と雅尚は思った。
 鬼である月影と人である雅尚の間には、いくらこちらが歩み寄ろうとしても地獄で吹く大暴風に邪魔される。
 人間――つまり衆生(しゅじょう)の悪意により発するというこれに妨害されるのは……。
(俺が人間だから、か?)
 得たい真実は漆黒で塗り潰され、秘めている相手の言霊は風で聞こえず、雅尚は泣きたい気持ちになった。
 その時――――
「大丈夫ですよ」
 優しい、穏やかな声が聞こえた。

*
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