契りの桜

□第九段◇儚き望み
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 灯台の光で橙(だいだい)に照らされた室内では、つゆさが血に濡れた手の布を彩葉に取り替えられていた。
 その合間に自分が倒れてからの出来事を話してもらい、そこで初めて三日間も眠っていたのだと知った。
 落ち込むつゆさに彩葉は眉を吊り上げて言う。
「良いのよ、それくらい。全然目を覚まさないから心配したけど、すぐ起きてたら参内させられただろうしね……。尚秋様の前では寝たふりを続けなさい」
 せっかく塞がりかけてたのにまた手を傷つけちゃったんだから、と険を含んだ声音で告げられては何も言えない。先程新しい布に変える際にも叱られたところだし、何より処置されてる身では反論の余地はないだろう。
(私が尚秋様を騙せるのかってのが問題だな……)
 彼のことだからきっと起きてるか確かめるために色々言ってくるに違いない。そうなれば単純な自分が上手く謀(たばか)れるのかが心配だ。
「そういえば、つゆさ。あなた何か夢を見ていたの?」
「夢……?」
「よく唸ったり泣いたり笑ったりしてたわよ。寝てても表情豊かなのね、おかげで眠ってるだけだってすぐ判るから助かったけど」
 クスクス笑う彩葉につゆさは恥ずかしくなるも、すぐに眉を下げて呟いた。
「夢、じゃなく……思い出してました。昔のこと……」
「そう……大丈夫、なの?」

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