契りの桜

□第七段◇浮上の灯
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「なんと……申した?」
「はい。雅尚殿に私を見張らせる真意は何かと、申し上げました」
 流暢(りゅうちょう)に言葉を紡ぐ矩鷹に明仁は脇息に肘を立て、そのまま手の平に額を押し付けた。
 ――やはりバレてしまった。覚悟のうえだったが、今の言い方では見張られていた事を最初は黙認していたのではないだろうか。
 なにせ彼は見張らせる“真意”を問うたのだ。見張らせている理由ではない。
 ではなぜ今頃になって尋ねてきたのだろうか……。
「いつから気付いていたんだ?」
「二度目にお会いした時にはもう……。尚秋殿がいらっしゃる場所など従者であれば存じているはずなのに、雅尚殿はわざわざ私を探してまでお尋ねになりました」
 その時に判りました、と言う矩鷹に明仁は目を瞬いた。
 そんな初めから気付いていながら何故黙っていたのか、何故それぐらいの事で分かったのか、不思議でならず聞いてみれば苦笑して返された。
「何か考えがあっての事ではありませんか?雅尚殿は例の狩り人の件にも関わっておられますし、骨休め程度に私を見張らせているのだと愚考(ぐこう)致しました」

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