記念小説
□ある晴れた日のこと
1ページ/4ページ
「え……明日、締め切り?」
『ああ、だからごめん。学校に行けそうにないんだ』
私こと、天川晴日は夜に突然電話がかけてきた彼氏である霧沢雨音君と電話をしている最中だった。
彼は今年の春にとある出版社に小説を投稿し、そして見事作家になったという我が桜並木高等学校においての大金星なのだ。
そんな彼が学校に行けないくらいで先生は雨音君を留年にしたりしないだろう。
「分かった、先生に言っておくね」
『何でそうなる……、あの、悪いな晴日、明日お前……』
「いいのいいの、私のことなんか気にしなくていいから。明後日は? 明後日体育祭だよ?」
『それは出れると思う。さすがに、高校生活最後の体育祭は出ておかないとな』
「だよね」
『明日の埋め合わせはちゃんとするから』
「だからいいって」
嘘。
本当は学校に来て欲しい。
一緒にいて欲しい。
ここのところ、ずっとほったらかしにされていたから、悲しい。
『でも、しないと俺の気がすまないから』
「そう? じゃあ、今度デートしよう」
『分かった、約束する』
「絶対だよ?」
『ああ』
「じゃあ、そろそろ仕事に戻った方がいいね」
『ごめん』
「謝らなくていいよ。お仕事だもん。小説家の彼女って結構鼻が高いんだよ?」
『本当に、悪いな。無理させて』
「してないよ。じゃあ、またね」
そういって、通話終了のボタンを押す。
「鋭いなぁ、雨音君」
無理してること、バレバレだったのか。
「8時か……」
あと4時間。
あと4時間もすれば、私の誕生日である5月25日だ。
でも彼は、パソコンに向かい合って、ダカダカとキーボードをものすごいスピードで叩いているのだろう。
時々手を止めて、苦いコーヒーでも口に含んだりして。
「誕生日、か」
ポツリと呟いた言葉は、部屋の中に消えていった。