記念小説
□日高南曇についての考察
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僕の名前は日高南曇(ひだかなくも)、えっ? お前誰? って?
ちょっとそれってひどくはないかい? 僕も一応、文芸部員の一人だよ。
うん。影が薄かったのは認めるけどね。
今日は9月9日、僕の誕生日。
であることは間違いないけど、多分恐らく、誰も祝ってくれないだろう。
何故なら、さっきも言ったとおり、僕の影が薄いから。
「南曇」
朝、午前8時5分、自分の席について本(人間失格)を読んでいると、隣のクラスの霧沢雨音に声をかけられた。
「お前、高校一年生が読むものじゃないだろ、それ」
本に対して突っ込まれた。
「いいじゃないか。太宰治って結構いい作家なんだよ。西○維新さんの赤だの蒼だのの登場人物が出てくる本を読むよりましだろ?」
「大差ねぇよ。むしろそっちのほうが高校生らしいわ」
まぁ、ライトノベルだしね。
「で、何か用?」
「あ、ああ。そうだった。あまりに変な本読んでるから、そっちに目が行っちまった」
「今、太宰治ファンのほとんどを敵に回したぞ」
「別にいいさ。たとえ世界のすべてが敵に回ったとしても双子の弟が身代わりになってくれるから」
「君に双子の弟が居るなんて初耳だよ」
大体、身代わりになってもらった子、姉じゃん。
「と、そんな楽しい会話しに着たんじゃない」
楽しい会話だったのか。
「今日は、ちょっと遅めに部室に来てくれってさ」
「僕が? それとも全員?」
「お前が。じゃ、それだけだ」
「彼女からのお使いお疲れ様」
「煩い。人間失格」
「じゃあ、君は欠陥製品だ」
「逆だろ」
「ばいばい、セリヌンティウス」
「走れ、メロスってちげぇ!」
「ノリツッコミがうまいね」
というか読んでたのか。あれ。結構な量なんだけどな。
「じゃあ、今日、5時ごろ部室に来てくれだとよ」
「了解」
さて、続きを読もうか。
午後5時になった。時間経過が早い? ページ関係でね。勘弁してやって。時間は図書室で適当につぶした。
「さて、これは、誕生日のパーティーなんだろうか」
天川さんの考えそうなことだ。あの子は楽しいこと大好きだから。誕生日とかは盛大に盛り上げるし。クリスマスなんかは何やるんだろ、誰かの家に上がりこんでパーティでもやるのだろうか。
って、そもそもクリスマスは雪梨の誕生日だ。
「何か準備しないと。大切な彼女の誕生日なんだしね」
え? 皆ちょっと今、頭の上にはてなマーク浮かべた? あ、そういえば本編で一度も触れてなかったっけ。
僕と原木雪梨(はらきせり)は、男女としてお付き合いをさせていただいております。
「さてと、入った瞬間クラッカーとか来るのかな。あれびっくりするんだけど」
ポツリと呟きながら、銀色のノブをひねる。
てっきり盛大に祝われるのだと思ったのだけど、どうやら違ったらしい。入った時、部室に居たのは、雪梨だけだった。
「雪梨?」
「や、やほ」
「やほ」
挨拶が着たのでとりあえず挨拶返し。
「どうしたの? その髪」
真っ黒なストレートセミロングヘアだったのが、何故かウェーブがかってる。
「く、クラスの皆にいじられた。晴日も一緒だったけど」
「そう。似合うね」
「お、お世辞とかいいから」
お世辞のつもりはないのだが。大体彼女にお世辞を言ってどうする。いや、そういう彼氏も居るには居るのかもしれないけれど。
「か、彼氏の誕生日だからそれだけサービスしてもいいと思うって」
サービス、か。いかにも天川さんがいいそうなことだ。
「因みに、いつからその髪型だったの?」
「放課後になってから。一番にここに来て、髪で遊ばれて、化粧とかもされて5時前に皆帰った」
「そう、ならよかった」
「何が?」
「そんな可愛い彼女をほかの男に見てほしくなかったからさ」
彼女の顔が赤くなっていく。そんなに変な子といったかな。僕。
「こ、これ。一応。誕生日プレゼント」
顔を俯けたまま、彼女は白い紙に包まれている何かを、僕に渡した。
「あ、ありがとう。あけていい?」
コクコクとうなずく雪梨。
張られているセロハンテープを綺麗に剥がし、包んでいる紙を破らないように慎重に開ける。
中から出てきたのは、一冊の本。
中原中也の「汚れちまつた悲しみに」の表紙がとある漫画家によって書かれている文庫本。
「……これ」
「ほ、欲しいって言ってたのと違った?」
「ううん。嬉しいよ。ありがとう。雪梨」
本当は、もう既に自分で手に入れていたのだけれど、それは言わないことにして、本屋にでも売ってしまうことにしよう。
この可愛い彼女が、僕のためを思って買ってきてくれたに違いないのだから。
fin
作者コメント。
ぐだぐだですみません。とりあえずこいつは天然たらしということです。